7. 最高峰の魔法試練
コンロ•オルデンという魔法使いは、最も灯台に近付いたと言われている魔法使いだった。知識量や知られている過去の文献を全て所持していた。最強の魔法使いは誰か、と聞かれたら必ず候補に挙がる。まさに、そんな存在だった。
彼女がそう民衆に認識されたのは、不可解な魔法と魔力操作の精密さにあった。1つや2つの魔法を操り戦う魔法使いが多い中、彼女は無数の魔法を操り戦っていた。初見殺しの応酬。情報を持つもの同士が睨み合い、複雑に絡みあった情報戦の世界をシンプルな実力主義に塗り替えた。
「私の攻撃から3分間、無傷で耐え切ったら遠征を始めてもらう!」
彼女がそう言ってから、弓を構えるラッキーに向かって書物を広げる。
「魔導書…?」
「いや、違うね!ただ魔力を集める媒体、杖みたいなもんだよ!」
ページが流れるようにめくられると同時に、ラッキーに向かって岩石が吹き飛んだ。魔力を目に寄せて、咄嗟に反応する。
「時間差でもう1発…!?」
のけぞるように数発かわすと、軸足に向かって地面を舐めるように岩石が飛んできた。
軸足を離して、地面を蹴る。半回転して弓矢を構えたラッキーだったが、狙う先にコンロは居なかった。
「真空!魔法!」
死角からの衝撃波。
「ドラえもんの空気砲かよ」
弓を投げ捨て、左腕に魔力と意識を注ぐ。
「幸運魔法」
快音と共に、火花が散る。空中で体勢を崩したラッキーだったが、地面に落下する瞬間に体をひねり受け身をとる。コンロは、ラッキーの左腕を凝視していた。
「…無傷か!すごい!すごいよ!でも…」
(コンロ様の魔法は…)
「ここからだよ!」
ラッキーの視界が歪んだ。茶色の土が水色に見えて、空が茶色に見える。魔法による弊害だと、ラッキーは瞬時に理解した。
「いってぇ」
自身の拳で頭を殴った。
(幻覚魔法はある程度の衝撃で解除されますが、コンロ様の目的は時間を稼ぐこと。この魔法を予備動作なしで発動するコンロ様も、解除方法を咄嗟に理解するラッキーさんも人間とは思えません…)
「召喚魔法、水龍」
地面に殴り書きした魔法陣から、巨大な水龍が飛び出してきた。全長は拠点よりも大きかった。
「まじか…?」
洪水のような水が、ラッキーの周りを囲んで襲ってくる。逃げ道があるか分からない状態だったが、木々を避けつつ間一髪で逃れた。
水龍は息吹のように口から水を噴射し、水圧で木々を破壊して逃げ道を塞ぎ始めた。
「迅雷魔法!」
(幸運魔法の効果は一瞬。水で感電すれば幸運魔法は無意味。ラッキーさん、耐えてください!)
森林を埋め尽くした水に迅雷が伝播し、辺りが壊滅状態となっていた。空中にいるロワからも、ラッキーが動いている姿は視認できない。
(ラッキーさんが見当たりません…)
「…!?ラッキー!?生きてる!?大丈夫!?」
魔法陣を足で消すと、水龍は消滅した。そんなことには目もくれず、コンロは水浸しになっている森林を見渡した。
「生きてるよ、危ない」
「ラッキー…どうやって耐えたの!?」
「死犬の死体に埋もれるように、倒木と倒木の間に滑り込んで水から逃げた。死犬の皮は電気や炎が効かないって本に書いてあったからね」
「………すごい!すごいよ!」
「顔近いって」
(おめでとうございますラッキーさん)
肩にちょこんと座ったロワは、羽を器用に使って拍手をした。
(これからのことは、夕飯を食べながら話しましょう)
ミステリーサークルのように木々がぐちゃぐちゃに倒されて、地面もデコボコに穴が空いている。挙げ句の果てに魔物や動物が迅雷で力尽きている。これが本当の環境破壊である。
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「ていうか、コンロに会う前に群れの死犬に遭遇したんだけど、本の記載が間違ってるんじゃないのか?」
「いや!あれは私が仕組んだ!魔法で追い込んで群れているように見せただけ!」
「えぐぅ」
(えぐいです)
ラッキーはシチューを少し溢したが、気にすることなく反応した。ロワも同様。コンロは楽しそうに笑っている。
(コンロ様が出向けなかった国や地域から、過去の戦争に関する書物が眠っている場所、コンロ様が灯台の場所だと予測する場所に行ってもらいます)
「まあ、ラッキーが怖いなら、どうしてもって言うならここに残ってもいいけどね!」
「いや行くよ。俺もこの世界の過去、気になってるしね」
(コンロ様、こんな人材は2度と見つかりませんよ)
「いいこと言ってくれるねロワちゃん」
ラッキーは優しいタッチでロワの頭を撫でる。
「じゃあ…最後に、一緒に買い物に行こ!旅の準備も兼ねて!」
(楽しみです)
「ロワはお留守番ね、ラッキーと2人で行くから」
(!?)
「たまにはロワも家でゆっくり休んだ方がいいよな」
ラッキーはより優しく頭を撫でる。
「明日、楽しみにしといて!」
コンロ•オルデンによる最高峰の魔法試練は、無事に幕を閉じた。




