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6. 書を司る魔法使い 後編

まさに魔女の家。壁、階段、全てが丸太で家の中は市民図書館のような匂いがする。あの時迷い込んだ古本屋にも似ている。


「来たね、いらっしゃい!」


ドアベルを聞きつけ、コンロ•オルデンは階段を下ってきた。


「…あんたが最初の来客?現実…日本から?」

「うん!」

「少し気になったことがあって、これ」


破損したiPhoneを見せる。


「ナニコレ〜!?」

「え!?」

「私のいた時代には無かったものかな、まあ500年も前の話だし」

「えぇ!?」


 室町時代。流行っていたものは水墨画。庶民•貴族のように生まれによって地位が決まっており、戦争も普通に起こる。

 ロワが言っていた『久しぶりの来客』とは、ラッキーの想像以上に『久しぶり』だった。


「しがない農家だったんだけど、ある時人生どうでもよくなって、何か盗もうと貴族の豪邸に忍び込んだの。そんで書斎みたいなところで紙見て興奮してたら…」


「この世界に転移した、と」


「多分私より前からこの世界に飛ばされてる人はいるかもしれないけど、生存してる中でいったらぜーったい最古参だね!」


「なんであんたは生きてるんだよ…」


(今まで生き続けられているのは、自身にかけた魔法のおかげなんですよ)


「めちゃ高い魔道具”解明の鎖”を使ってね、この世界の戦争終焉地である灯台を見つけること、またその期間の謎を全て解き明かすこと。これが出来ればしわ寄せが来て、死ぬね!」


(悲しいです…)

「死ぬね!じゃねぇよ軽いな」


「まあ鎖にはある程度”縛り”があるんだけど、それはいつか話すとして…本題だよラッキー君!」


ラッキーと向かい合うように椅子に座り、ロウソクの火をつける。


「君、私の手足にならないかい?」


「はい?」


「とある事情で外に出て行動することができない。だからこの家を拠点として、色々な場所に情報を盗みに行って欲しい」


(無理に受ける必要はありませんよ)

「…見返りは?」


(!?)


「ホント最高だね!見返りは『この世界からの脱出法』ってのはどう!?」


 ラッキーの脳が揺れる。

 

この世界から抜け出せる方法があるのか!?いや、確かに入り口があって出口がないっていうのも不可解だが、現実(あっち)と行き来することができるということか?それとも?

 


「…いやそれはいい」

「なんで!?」

「こっちの世界の方が、まだ楽しい」


(!?)

先程からずっと、ロワは混乱している。イレギュラーな事例なのだ。


「なるほどぉ…本格的に君が欲しい!欲しい欲しい!じゃあ私がめんどくさい事は引き受ける!家事だの洗濯だのなんでもやる!」


(!?コンロ様ができるのですか!?そんな事!)


「どんな高い魔道具でも武器でも用意する!」


「乗った!」

「よし!」


ラッキーもコンロも、高揚していた。やっと停滞していた時間が、流れ出したように感じたからだ。




~~~




朝日がラッキーの目をこじ開けた。

「ん」

ロワに叱られながら、コンロが布団を干している。


(この干し方だと全体が乾きません!)

「すいません…」


テーブルには、不器用な卵焼きと焦げたパンが置いてあった。


(ラッキーさん、遠征出来るようになるまでコンロ様に料理を教えてあげて下さい!)

「了解」

「そんなぁ…」


 この世界でのモーニングルーティーン。まずはコンロが生成した水風船のようなものを破る。水風船と言ったが、強度はそんなに甘いものではない。まるで宇宙船の中で水をぶちまけたときのように、プカプカと水の塊が宙を浮いている。


 確実に中心部を狙って剣を突かないと破裂しない。剣を振るっても水の塊が凹むだけで何も変化がない。矢を放っても、明後日の方向に矢が飛んでいく。


「結局、この方法しかないのか」


 地面を抉りながら走り出し、速度がピークを迎えるタイミングで勢いに乗せて剣を突く。分かりやすくイメージすると、炭治郎の雫波紋突きである。波紋のエフェクトなど出ないが、波紋の中心を狙って突くことを意識する点では似ている。


 強烈な破裂音と共に、水が分解されて地面に落ちていけば成功である。


「平和な時代から来たくせに、やるねぇー!」

(本当にそうですね)


音を聞きつけて、洗濯物を干し終えたコンロたちが褒めてくれる。温かい職場である。


 この水風船割りが終われば、次は弓の技術を上げる。コンロが召喚したユニコーンに乗って、走りながら的に命中させるように弓を放つ。まだ全てを撃ち抜くことはできないが、成長の兆しが見える。


 最後は魔法使い直々にマンツーマンのトレーニング。魔法を1つ習得するというものだ。魔力というものが存在していること、そして魔力量は才能が全てであることは想定内だったが、魔法を1つ習得するだけでも相当難しいということには驚いた。


「この中から好きな魔法を1つ選んで!」


 魔女の家の最上階である3階は、コンロの部屋なのだが一面本棚。全てが魔導書で一つの本に幾つか関連性のある魔法が記載されている。


「…これにするよ」

「幸運魔法?名前とリンクしてていいね!」


幸運魔法。魔法を無効化する。発動するとその付近を魔法を塞ぐことができる。効果時間が短すぎて、タイミングが少しでもズレると失敗するため「幸運を持つもの」のみが使いこなせると言われ始めたのが由来だそうな。


「中々難しいよ〜!?でもラッキーなら出来そう!」

「顔が近い!」


幸運魔法を習得したいというラッキーの意志に、コンロは感情を昂らせていた。

 さて、ラッキーの魔力は平凡である。魔法を発動させるために体の中での魔力の流し方を覚えて、魔導書に魔力を込める。

 魔法が使えるようになるには、何度もトライしてコツを掴むことである。ラッキーはしばらくの期間部屋に篭っていた。


そして、1ヶ月ほど経過した。


死犬(スロワ)が集まる墓場へ向かうため、ラッキーは日が暮れるまで拠点に戻らない日々が続いた。



(最近、外に行かれることが多いですね)


「寂しいよね〜」


(ラッキーさんが遠征に行くことになったら、もっと寂しいですね)


「はぁ…」


(遠征に行かせようとしているのは、コンロ様ですよ)


「そうだけどさぁ〜」


夜になるまで、コンロはガーデンチェアに腰をかけてロワを抱き抱える。


(死んだと思われた書の魔法使いが、こんなところでくつろいでるなんて誰が想像するでしょうね)


「ね!ラッキーはいつ気付くんだろうね!」


(まず、書の魔法使いの存在を知らないでしょうし、だいぶ先の話になりそうですね)


「ただいまァ」


「おかえり!」

(おかえりなさい)


ラッキーの帰宅と共に、食事の時間が訪れた。



~~~



「手に力入れて…」

ラッキーの手の甲を、コンロが上から包むように握る。


バンッと音が鳴り、ラッキーは腕ごと地面に叩きつけられる。


「相手が魔法を使うタイミングを上手く読んで、魔力の動きに合わせて幸運魔法を使わないと」

「了解…でもこんな強い魔法使う必要ある…?」

「強くない強くない!こんなんは雑魚魔法だよ」


 雑魚魔法だとしても、500年研鑽されてきた魔法使いとしての技量と底なしの魔力が威力を上げているのだろう。


「今日は一旦休憩」

「もう!?まあいいや、ゆっくり休んでね〜」


コンロはそそくさと部屋を抜けて階段を降りる。

自分の手を開いてふと思う。


久しぶりに人の手を握ったな…。


(コンロ様)


「ひゃい!」


(1階まで音が聞こえました。手加減を覚えて下さい)


「ごめんなさい!…でも、もうちょっと威力あるんだよね、あの魔法」


(!?つまり…)


「そうだね、魔法自体は出来ている。タイミングが上手く合っていないだけ」



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