5. 書を司る魔法使い 前編
パンッ、ラッキーは手を叩く。木々に覆われた山道を進んでいる途中、厄介な敵に襲われている。
(魔物に分類される危険種です。油断は禁物ですよ)
ラッキーの叩いた音が森に響き渡り、気配が伝わってくる。暗闇から、赤色の目が増えていく。
「ハイエナみたいだな」
(この辺りには、盲導犬や自爆犬の墓があります)
「その亡霊…ってところか?」
死犬。自身の墓の近くを徘徊し朝になると消える魔物。縄張り意識が強く、近づく他種の生物は問答無用で食いちぎる。
基本的に、この魔物は群れない。
ラッキーはロールを広げる。朝日のように眩しい光を放つ魔法陣が、足元に展開される。光が消えると共に、広げたロールは起爆した。その時にはすでに、ラッキーは走り出していた。耳がキーンと刺激されるほどの轟音と、辺りが黒煙で覆われる。
(2匹抜けてますよ)
後ろを振り向き、弓を構える。木の陰から顔を出すタイミングで偏差打ちを決め、口に咥えていた矢を装填し、再装填の隙に突っ込んできた1匹の死犬の脳みそを貫いた。
(…え〜、怖ぁ)
「いや褒めろよ」
人からも魔物からも逃げ、ラッキーは街を抜けて山を越える。
~~~
焚き火。
串刺しにした魚を遠火で焼く。
(死犬は上位の魔物です。抜け出せたのは運が良かったと捉えるべきか、ラッキーさんが優れた狩人ということなのか…)
「ま、前者でしょ。俺ラッキーだし、名前」
ロワは驚愕していた。ラッキー•オルデンという人物は狂っている。異世界からの来客を何人も迎えてきた。世界に慣れるまで数年かかり、魔物を恐れて泣き喚く。そんな光景を幾度も見てきた。
この男は違う。来訪してそこまで月日は経っていないはずだ。観測者の才能があり、判断力の素早さ、狩人としての腕も申し分ない。
「食わないのか?ロワ」
魚をかぶりつくラッキーを見て、頭が食欲に支配されたロワは、魚の身をほじくり出して骨を抜き取った。
「骨の場所とかも知ってんのか、ていうか器用だな」
(私は情報家ですので)
「ロワって…どういう存在なの?」
(これから会う人に聞いてください。全てが分かりますから)
「美味しそう!」
「うわっ」
ロワの後ろに、目の形をした亜空間——瞳のように歪んだ。中に人がいて、本棚の前で正座しているように見えた。
「ラッキー•オルデン君だね!久しぶりの来客だ」
「え、あの、、どちら様でしょうか、、?」
亜空間はモノクロで、顔布が被さっていて表情が読めない。
「気になる!?知りたい?」
「この登場の仕方で明るい人なんているんだ…」
(意外ですよね)
「私は観測史上最初の来客!コンロ•オルデンだよ!最高の世界へようこそ!」
「え」
(…私はコンロ様の魔法で創造された伝書鳩の亜種です)
「おー…」
「うん」
情報処理が追いつかず、とりあえず魚の頭を食らう。
何、この亜空間みたいなやつって魔法?ていうかこいつ最初の来客?テンションおかしいし…ロワもこいつが召喚したの?
「君、ガッツあるね!狩人としても上位15%くらいの実力はある!しかも史官に選ばれるなんて!」
「俺、いつから見られてるんですか…?」
「ずっとずっと!フロルとかいう胡散臭いやつ来る前くらいから”目”を開いて見てたよ!」
「結構前から…俺のプライバシーは…?」
「ごめんごめん!ロワが報告を入れてきてね、ちょっと気になっちゃった」
「その先抜けたら、私の別荘あるから!早く来てね!」
「あ、ちょ…」
ヴヴン、と亜空間の目が閉じる。ロワはゲンナリした様子でラッキーの肩に着地する。
(行きましょうか…)




