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3.史官と狩人

(なぜ観測者の職があてがわれているのでしょう。来客は言わば不純物。高貴な血や生まれ持った才など手にしているはずがないのですが)


「口悪くない?」


 目を丸めて飛び回るロワを横目に買い物をする。協会付近には活気のある市場が広がっている。戸籍登録をすると、この世界の通貨をたんまり貰うことができる。戸籍未登録の人が多すぎて管理が難しかったところに、協会が打ち立てた策である。マイナンバーカードで貰えるポイントと同義だろう。


「こんなに買ってくのかい?どこの誰だか知らないがありがとね」

「また来ますよ、ラッキーです。覚えといて下さい」

「あいよ」


 リンゴや梨、みかんを下に詰め込んで上にバナナをたくさん積んだ。商品は言わずもがな屋外に置いて販売しているので衛生面は悪い。


「こっちの方が海外感あってワクワクするけどね」


 海外どころの話ではなく、世界が違う。

 新鮮味のある生活を送るのは久しぶりだ。服装に違和感を覚えて出身地を聞いてくる人がちらほらいたため、早足で拠点の方向へと向かう。


(観測者の職、一体何だったのですか?)


「史官」


(し、史官!?現在、過去全ての歴史を記録し、未来に受け継ぐ高貴な存在で、全人類が追っている戦争が終焉したと言われている灯台、それに英雄の存在などの全ての情報を合法的に聞き出すことができる唯一の…)


「待て待て、まだ史官になるとは言ってない。それに記録するだけなら誰でもできるだろう」


(…史官というのは言わば最強の肩書きです。史官が残した書物とあらば、何百年、いや何千年時が経とうと大事に保管される、そういうものです)


「他の連中が書くとなんで書物とか消えちゃうんだ?別に誰がやったって大差ないだろ」


(言葉の信憑性が違います。一般人の記録書など未来の人が見ても参考資料の1つ。ですが史官が記したことは全て事実だと断定され、研究員の耳に知れ渡り、教科書に印字される。そういうものです)


「ホント、人は皆平等じゃないなこの世界は」


(史官は今、片手で数える程度しか存在していません)


「じゃあ、ちょっとこの世界に順応してからやろうかな、その史官ってやつは」


(……冷静ですね。史官は狙われやすい職でもあります。誘拐され、拷問され、虚偽の記述を強要された例もあります)


「そうと分かればまずは飯だな。流石に腹が減った」


(他の職はどうでした?)


「狩人が適正あるらしい。落ち着くまで狩人として世界に溶け込んでいきたい」



~~~



 来訪してから何日が経過しただろうか。街を抜けて、今は森にいる。あの時、目を覚ましたこの場所。今は耳に集中して弓を構えている。


 土が跳ねるわずかな音。かつてワイヤレスイヤホンの片側を部屋で無くして、大音量で音を鳴らして耳を澄ませていたあの時のことを思い出す。


「……左」


 180度、思いっ切り体を捻り、弓矢を放つ。血液が飛び散り、ウサギの死体が転がる。


「いつも思うけど、ツノがあるの違和感あるわ〜…」


(こいつは主土兎(ドンラビ)ですね。この辺りでは人への警戒心が高く、狩りをするのは熟練者でないと厳しいです)


「いつも殺してるやつはこいつの子分ってことか。つまり、俺はもう熟練者っていうことでいい?」


(まあ、いいでしょう)


「何だその嫌々言ってあげてる感…。今日は鍋だな」


 ロワはあからさまに嬉しそうな顔をしながらラッキーの肩に登った。


——その時。

何かが近づいてくる気配がした。


「ようやく見つけた」


低く、疲れ切った声。


「ようやく見つけたよ、君が噂のラッキー•オルデン君だね?」


主土兎(ドンラビ)の死体を片手に距離をとり、足音と声がする方に弓を構える。


「警戒しなくていいよ、私は協会から連絡を受けてね…ハァ」


あまりにも無防備な姿に、戦う意志は感じられなかった。


「少し走りすぎた…君に…話があるんだ…」


ロワと目を合わせ、ラッキーは口を開く。

「う〜ん、疲れてるならちょっと休んでから話聞くよ」


「すまない…私は考古学者のフロルだ。突然だが、君、今から引っ越す気はないか?」


 この街での生活に慣れ、狩人として職が成り立つくらいには世界に順応し始めた矢先のことだった。














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