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空中に、結界が張られている。ロワが不思議そうにそれを眺める。
「どう!?」
(めっちゃ…不安定かもです)
言われたその瞬間に結界が解ける。
「なんでぇ…空間指定も空間把握も完璧なのに」
(結界生成が甘いのでは?)
「だってコンロが…」
コンロは少し前、ラッキーにこんなことを話していた。
「結界魔法は、感覚を掴めば終わり!空間指定も空間把握も結界生成も全部一緒!結界が作れるのは大前提で、どれだけ早く結界を生成できるかが大事だね!」
「なるほど」
「分かったら早く将棋しよぉ〜」
将棋盤を持って胸元に飛び込んでくる。赤眼を活かして華麗に避ける。コンロは一枚上手で、避ける方向を読んでラッキーにぶつかる。
「いえ〜い」
(それは完全に、早く将棋がしたいから嘘をついているだけです。魔法は感覚だけでは掴めません。使用する魔力量を体を慣れさせる必要があります。それを感覚と呼ぶのかもしれませんが)
「でも、空間指定も空間把握も結界生成も全部魔力量違うからぁ、全部同じ感覚で出来ないよねぇ〜」
不貞腐れながらも、ラッキーは修行を続ける。その姿を、お茶を啜りながらシロエがじっと見ていた。
コップの下に、空間指定の魔法線が現れる。そして、コップを包むように空間把握の魔法板が四枚生成されて、最後。
「ほっ」
コップは、角が揺れている結界に包まれて、すぐに解ける。
「できた…ラッキー様、私も負けていませんよ」
シロエは一人で、結界魔法の習得に勤しんでいた。
~~~
水面は夕日の光を反射してきらきらしている。風は弱く、静かで、魔物の気配もない。
「よーし! 今日は修行じゃなくて、遊びだからね!」
コンロはそう言って、釣り竿を高く掲げる。元気が良すぎて、糸がぴしっと音を立てた。
「……修行じゃない、はずだよね」
「釣りも集中力いるから修行だよ? ほら、結果オーライ!」
ラッキーは苦笑しながら、竿を受け取る。魔法線を引くときと同じように、無意識に姿勢が整っているのを見て、コンロはにやにやした。
「もう完全に職業病じゃん」
「毎日やってるからしゃーなくない?」
二人並んで腰を下ろす。
糸を垂らすと、水面に小さな波紋が広がった。
「ねえラッキー」
「ん?」
「結界、上手くいかなくて悔しかった?」
少しだけ、声音が落ち着いている。
ラッキーは一瞬考えてから、正直に答えた。
「悔しいっていうか……焦るかな。出来ると思ったことが、出来ないと」
「そっかぁ」
「でもさ、出来ない時のラッキー、結構好きだよ」
「……どういう意味?」
「ラッキーがこの世界に来てくれて良かったってこと!それで相棒にして良かったって意味だよ!」
パッと笑って言い切る。その横顔は、いつも通り無邪気だった。
突然。
ぴくり、とラッキーの竿が揺れた。
「……来た」
「え、うそ!?」
ラッキーは慌てず、糸の張りを感じ取る。
引きは強くないが、確かに生き物の反応だ。
「今だよ今だよ!」
「分かってる…よっ」
ぐっと竿を引く。
水面が跳ねて、小ぶりな魚が姿を現した。
「釣れたー!!」
「やったじゃんラッキー!」
コンロは自分のことのように喜んで、思わず抱きついてくる。
「ちょ、魚、魚!」
「えへへ、ごめん!」
魚を外して籠に入れると、二人は顔を見合わせて笑った。
「ねえ」
「ん?」
「結界もさ、今日みたいにさ」
「うん」
「一回失敗しても、ちゃんと待って、引けばいいんじゃない?」
ラッキーは、その言葉を噛みしめる。
「……昨日のアドバイスとは裏腹に、やけに的確だな」
「でしょ! 私、天才だから!」
胸を張るコンロを見て、ラッキーは小さく笑った。
「じゃあ、もう一匹釣れたら、将棋一局付き合うよ」
「えっ本当!? 約束だからね!」
水面に、また静かな波紋が広がっていく。
結界は張れなくても、この時間だけは、不思議と壊れなかった。
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「危険すぎる」
「私も同意見です」
(基本的にラッキーさんの意見を尊重しますが、私も反対ですね)
緊急会議。四人で話をしている。ラッキーが初めて自分で釣った魚を、自分で調理したいと言ったからだ。
「私は、ラッキーさんにしかできないならやるべきだと思います」
「なんで?今ラッキーは結界魔法も習得してない。私より強い魔法使いや剣士だって存在している!」
(史官となれば、そのような者に命を狙われる可能性があります)
一呼吸おいて、シェルは言う。
「ではなぜ、私のもとへ彼を連れてきたのですか?」
「それは、強くなった時に史官としての振る舞いを教えて欲しかったの」
「ラッキーさんは強くないと?」
「強いよ!強いけど…史官として一人で動くなら、もっと圧倒的な力が必要でしょ!」
ラッキーは食卓に料理を運んでいる。何も言わずに、漏れる会話を聞き取っていた。
「一人、かは分かりません。現に、灯台の影や協会も彼に目をつけているではないですか」
「あんなやつら信用できるか!」
「落ち着いて」
全ての料理を運び終えて、ラッキーは席につく。
「話を、一から全部聞かせて」




