20
「おはようございます」
「…おはようシロエ」
どんなに夜更かししても、朝になればシロエが起こしにくる。怖いくらいに、毎日同じ時間帯なのだ。
「シロエはいつもどのくらいの時間に起きているんだ?」
「私は太陽が登ってくるまでには必ず起床しています」
「はっや」
起床後、フライパン片手で魚料理を作る。基本的に島でのご飯は魚料理と決まっている。元日本人のラッキーからしたら有難いことである。
「よっと」
フライパンを振って、焼き飯を作る。朝から焼き飯はハイカロリーだと思うがコンロからの頼みなので断りずらい。
横長の皿に、焼き魚。人数分の皿を準備して焼き飯をよそう。
「朝ごはんできたよぉ」
「もうちょっと…寝る…ぐはっ」
(ラッキーさん、もう少しだけ待ってください)
寝癖ボサボサのコンロが、ロワに叩き起こされている。シェルは気付けば食卓にいる。シロエはフライパンをずっと見ている。本当に、ずっと。
「そろそろ席座ろ、シロエ」
「はっ、すいませんラッキー様」
全員でご飯を食べたら、次は結界魔法の基礎を学ぶ。
空間指定→空間把握→結界生成の順で魔法を展開する。この三段階の魔法を使った術を結界術と呼ぶらしい。
まずは、地面に正方形の空間を自身で指定する。長方形でも構わないが、結界術は円形になると柔くなるらしい。なので、綺麗な直線を描くように魔法を使う。
「空間指定!」
ぐにゃりと空間が歪み、魔力反応が途切れる。うまく直線にならず、歪んだ線になってしまった。まずは、この空間指定をうまくできるまで特訓が必要である。
昼過ぎになるとコンロと将棋を指す。令和と室町で、時代を変えたストラテジーゲームコンテンツである。
コンロは暇な時、一人で勉強をしているし、頭もキレるのでラッキーなど敵ではない。
「まだまだだね!」
「はえぇ?」
ほぼ全ての手駒が取られて詰み。やってられない。
次は魔力操作の特訓。ラッキーが渡してきた木製の小箱。これは、魔力を込めることで浮かぶ。この小箱を浮かす。それだけなのだが…。
天井に当たって落下。魔力を雑に扱うと変な方向に飛んでいく。その場に留めるのに、神経がすり減っていく。コンロに手本を見せてもらう。
「このまま寝ちゃいそうだわぁ」
「マジか」
異次元すぎる。もはや悲しい。コンロに勝っている分野が一つでもあればいいのに。
夜になるまで、シロエとお茶を啜りながらダラダラする。たまにコンロもコタツに入りにくるが、ロワに引き戻されて書斎へと戻っていく。
「最近ハマっている本は、こちらの本です」
趣味は読書。主人に従順。礼儀正しく敬語もバッチリ。隙のない人間である。
「結界魔法、修行の進み具合はどうなのですか」
「全然進んでない。最初のステージすらクリアできない、まさに無理ゲーって感じで」
「むり、げー?」
「ああ、こっちの話」
ここでの生活が心地良すぎて、ラフに話をしてしまう。会話面では、昔の自分が戻ってきているようだ。
「私も興味があります、結界魔法」
「…うーん」
「ラッキー様、是非私にもその結界魔法の———」
「ダメだシロエ。君は魔法使いにはなってはいけない」
後ろからシェルが声を挟む。しょんぼりしながら返事をして、シロエは外に出て行った。
「なぜですか?」
「ラッキーさんには才能がある。魔法使いになっても、開拓者として戦地に駆り出しても死なない。それは異国の地から来た何かが影響していると私は思うのです」
「もしかして、シェルさんの父も何かあったのですか、才能が」
「父は鬼才でした。東の一国を治めて軍の長官まで登り詰めて、開拓者として文献を一つ発見した…」
「ロワの話ですと、オルデンの名前を持っている普通の人もいたとのことですが」
「…東の一国に、サラオルの惣菜という店があるのですが、店主はオルデンという名を持っていました。この店は開店してわずか一週間経たずで大人気となり、店名を街に轟かせました」
「なるほど」
「オルデンという名前がつけば、何かしら才に恵まれるということ。あなたはそれを理解した方がいい」
「私はただ、シロエを死地に向かわせたくないのですよ」
シェルは「さ、ご飯の時間ですね」と呟いてキッチンに向かう。その背中はどこか寂しさを感じさせた。
夕日が沈み、五人で晩御飯を囲む。ラッキーの一日が終わる。




