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1.久しぶりの来客

眠りから目覚めた。頭は回らないが危機感はまったく感じない。日曜日の11時、二度寝から起きた直後のテンションだ。


     『クレマシオン•シュヴァル』


 そう記された墓が目の前にある。森の中。葉が日光を隠しきれず光が差し込んでくる。不思議なことに、その墓だけは濃い影に覆われていた。


(こんにちは)


 耳元で声がした。肩に何かが乗っている。


(来客は久しぶりです。歓迎しますよ)


「あー…」


 聞きたいことが多すぎて絡まってしまう。


「とりあえず、ここどこ?」


 伝書鳩は咥えたロールを手のひらの上に落とした。それは地図だった。縮小度は分からないが、直感的に「世界地図だ」と理解できた。


(赤い印の付いた場所です)


「いやそういう次元の話じゃなくてだな」


(…?この世界の話ですか?あなたが住んでいた世界とは異なる世界です。来客は皆、異世界だ異世界と言います)


「え〜…っと俺は確か…変な古本屋に入って、それでやけに重い本を開いて…」


(本の名前は『灯台叙事詩』ですよね)


「和名だけどまあ合ってる」


(タイトルの通り、はるか昔の大戦争がある灯台にて終わりを告げたと考えられていますが、そのほとんどが謎に包まれているのです)


「…どこ向かってんの?」


(この地図の左側にある大陸は、すべて一つの国で成り立っていて、右側の大陸は複数の国が領土を分け合う形で成り立っていました)


「おいおい、無視すんなよ」


(それから何かが起因して左右の大陸に住む人々の関係性が悪化し、左は一丸となって右を襲い、右は各国が協力して迎え撃ちました。それから何かが起きて終焉を迎えました。発見場所も分かりませんが英雄譚のような、中の紙が1枚もない古書『灯台叙事詩』というものが発見されました)


「…本当に何も分かってないんだな」


(記録にはそう残っています。私もその英雄譚を見ていません。そもそもその書には英雄の名前すら記されていません。名前も死者の数も、勝者すらも)


「…」


(不自然でしょう?世界を終わらせた戦争なのに語られていることが少なすぎる)


 木々の隙間から差し込む光が次第に白くなり、潮の匂いが混じり始めた。


(そろそろです)


 森を抜けた。伝書鳩が向かう先には、朝日が海に反射して白を基調とした建物が海に向かって建てられている大きな街が構えていた。


(申し遅れました。私はロワと申します)


「あ、俺の名前は…」


(来客の名は、この世界では異質なものとなります。何か適当に偽名を)


「なるほど。じゃあ…」


 始めは困惑していた。知らない世界に脳に話しかけてくる鳥、そして世界の過去を説明される。自分の置かれている状況の異常さに打ちのめされていたが、裏を返せば、今まで死に物狂いで逃げてきた”しがらみ”から解放された。そう考えると、俺は幸運なのかもしれない。


「ラッキー。名前はラッキーでどうだ?」


(了解です。じゃあラッキー•オルデンという名前で登録しておきます)


「オルデンっていうのは?」


(来客共通の名前です。これは裏事情なので一般人は知らないので、まあお構いなく)


 ラッキーはロワと共に街に入り、拠点となる場所へと向かった。人混みを抜けて向かう先には、海につながる運河が見えてきた。水車が水を持ち上げ、ギシギシと悲鳴を上げている。


(こちらの家を差し上げます)


 少々狭いが、二階建てなこともあって、愛着が湧きそうな家だった。小窓を覗けば、歯車の影が規則正しく沈んでは浮かんでいた。


(土足のままが普通ですよ)


「…ここ俺の家なんでしょ?この家のルールは俺が決めるよ」


ドア前に靴を並べて、椅子に腰をかけて休憩をする。ずっと歩き続けていて疲労が溜まっているのか、再び立ち上がるのに数分は時間経過が必要だった。


(くつろぐ時間はないですよ。…目を瞑るな)


 ヅンッとした痛みが額に広がった。

 キツツキのように嘴で突かれたのだと、時間差で気付いた。


「ごめんてごめんて」


(今からまず、戸籍登録団体、皆に協会と呼ばれている所に向かってもらいます)










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