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(ようやく着きましたね)


 薄い青が広がり、少し冷たい海風がラッキーの髪を揺らす。風を邪魔するものがない、名前のない島。


「コンロ様、ラッキー様、ロワ様、おまちしておりました」

 ラッキーの足元に、小さな少女が駆け寄ってきた。

「シェルは?」

「今は寝室にしらっしゃいます」

「ありがと!」


 小さい島には、船が2隻、1棟の屋敷のみ。少しの建築物といくつかの墓石がある程度で、大自然に囲まれている。


「靴脱ぐのか?」

「んふふ…ラッキーもついにこっちの世界に慣れてきたようだね!」

(ここはコンロ様の昔の友人が残した別荘です)

「シトエル•オルデン。日本人で、夢はリゾート地で余生を過ごすことだったらしい」

「なるほど」


 ラッキーは綺麗な玄関に目を奪われながら、孫の手を握る。


「シトエルと結婚したのがレン。二人の息子と、その息子が養子として迎えたのがこの子!」

「シロクと申します」

「よろしく」

「それで、その息子がシェルだね」

「シロク、客人かい?」

「コンロ様がお見えです」


 寝室の引き戸から、老父が顔を見せた。


「コンロさん、お久しぶりですね」

「久しぶり!シトエルとレンのお墓、毎日手入れしてるみたいだね!」

「もちろんです。私が生きる意味ですから」

「またそんな悲しいこと言って…こちらうちの新人、ラッキーです!」

「は、はじめまして…ラッキー•オルデンと申します」

「ラッキーさん、手紙で読ませていただきました。コンロさんがこちらに引っ越しをすると聞いて、少し胸が弾んでいましたから」


 シロエは、えっさほいさと机にコーヒーを注いでいる。ロワにはミルク100%、シェルには50%の割合だ。


「理由を聞かせてもらっても…?」


 コホン、と一息を置いて。


「私は史官なのです。もちろん、今はその権力を使うことは一切なくなりましたが」

「え…本当ですか?」

「ええ、死ぬ前に、史官の全てをあなたに伝授したいと思います」


 混ざり切っていないカフェオレを少し喉に流し込んで、彼はラッキーの目を見る。


「…史官というものは、自殺装置のようなものです。覚悟してかかるように」

「え、俺まだ史官になるとか言ってないけど…」




~~~




 ティータイムはあっという間に過ぎた。コンロは外の長椅子で海を見つめており、ロワは寝ている。

「ラッキー様、少しお話をいいですか?」

「どうしたのシロエ」

「…どうして史官になるのを躊躇っていたのですか?」

「う〜ん、少し前までは別に史官になって暗殺されたりするの怖くなかったんだけど、今は死にたくない」


 シロエは透き通るような声で、小ささな心を搾り取るように話す。


「死にたくない、死にたいという気持ちは交互に起こるものだと私は思います。ラッキー様のように死んでもいいという気持ちを長く保てる方は、心が強い方だと尊敬します」


「それが普通なんじゃないか?俺も昔はそうだったけど、ある時に、今まで積み重ねてきた自分の全てが崩れた時に、どうでも良くなっちゃった。それだけの話だけど」


「…私はよく、シェル様に叱られます。気を強く持て、と」

「うんじゃあ俺が遠征に行くまで、俺ができることならなんでもするよ」

「…ありがとうございます」


 ラッキーに振り分けられた二階の部屋。小さな部屋だが、外から海が見える。元気よく手を振ってくるコンロの奥に、人がいた。


「あの船に乗っている人は?」

「…?どちら様でしょう?」


 シロエはキョトンとした顔をする。


「え、だからあの…水色の髪の人」

「…まるで私の母親みたいだね」


 邪魔するね、とシェルが部屋に入ってきた。


「もう一度、会えたらいいのに」


 それだけ言い残して、シロエを連れて部屋を出て行った。二人の背中が見えなくなったとき、ラッキーの目の奥にズキンと痛みが走った。耐えられない。声が漏れる。なんだ?


———何が起こった?


「ラッキー!?」


 目を抑えて疼くまるラッキーを、コンロは窓越しで気付いた。声に反応してロワと二人も部屋に駆けつけた。


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