15.地底湖の水車小屋
赤眼鳥にかけられた呪い。名を奪われた勇者。水車の魔法陣。現在地。そしてフロルがいたこと。理解不能なことがラッキーの脳を締め付ける。
「もう訳がわからん…」
(無理もないですが、順応していきましょう)
「だな…」
ロワは周囲を飛び回り、迷路のような洞窟を解析していた。
しばらくすると、地底湖があることが分かった。
(おそらく何かの鍵になる場所かと)
「仕事できるなお前。ちなみに何でそう思ったんだ?」
ロワに先導してもらい、足場の悪い洞窟を進む。どこからか常に、歪んだ魔力を感じる。
「これは…水車小屋か?」
(そのようです)
地底湖の中心で水車が回っている。年季を感じる小屋。水車が水を跳ねる音が響いている。
「あの壁画?の水車なのかな」
(行きますか)
ギィィ、と水車小屋の扉を開ける。部屋の中には机とタンスのみだった。机の上に、書きかけのノートと羽ペンが置いてある。
「このノート、何だ?」
(文献と呼べるほどの代物ではないですね)
2ページしか紙がない書に、少しだけ文字が書いてある。読めない。
「…てかなんで今までずっと、この世界の文字が読めてたんだ?」
(転移する媒体である書物の情報が、一部のみ脳に適応されるとコンロ様は推測しています)
「なるほど、よく分からんけどまあ転移した時のボーナスってことか」
ロワは書物におそるおそる近づいて、内容を確認している。
トムが設置したトラップから、慎重にチーズを取り上げるジェリーのように見えて、ラッキーはくすりと笑ってしまった。
(この文字は旧字ですね。旧字に関してはロクの政府が情報を解禁しています。何も書いていない部分は魔法で見えなくされているだけかもしれません)
「よし、じゃあこれを持って帰ろう…」
(コンロ様に話を聞いたのではないのですか?)
「ん?あっ…」
文献に触れた瞬間、コンロは書物にかけられていた呪いを受けて重症を負っている。
「じゃあどうする?」
(呪いがかかるかどうか他の媒体で試すべきです)
小屋の外に出て、ロワは真上に上昇する。暗闇に消えて数分後。ラッキーが心配でソワソワし始めた頃にロワは帰ってきた。
(コウモリです。どこから入ったのかは不明ですが、排泄物が溜まっているのを見たので)
「やるじゃん」
嘴にコウモリを咥えてやってきた。おもむろに、ロワは目を瞑り、床に寝そべるコウモリの方を向く。
(誘導魔法)
「え?」
コウモリはゆっくりと宙を浮かぶように飛んで、文献を器用に、背中に乗せた。
「いやいや、ロワ、魔法使えたの!?」
(もちろん、私にも魔力はありますので)
「それだったら赤眼鳥の時も手助けしてほしかったな」
(私の魔力では足止めにもなりませんよ、あんな化け物)
コウモリは、ふと我に戻り小屋を慌てて飛び出していった。満足げにするロワを尻目に、ラッキーは書物を手に取った。
「この書物を持って、コンロのところに戻るか。あの目みたいな、亜空間みたいな…魔法は今使えないのか?」
(あの魔法には縛りがありますから。詳しく言えば…)
書物が光っている。ラッキーの脳裏に、あの時の古本屋がよぎる。この光度、魔力がはち切れるような感覚。地ならしが二人の足を襲う。
「そういえばこの地底湖…」
壁画では、水車が魔法陣のようにも見えた。
「綺麗な円形になってるな」
中心に水車小屋がある地底湖。下からの高度な魔力反応に、鳥肌が立っていた。
水車小屋と陸を繋ぐ桟橋に、人影が見えた。左腕が焼け焦げたように見える。細い。左手には短剣を握っていた。
目線はラッキーに向いている。逃げ出したくなる程に、不気味な眼光だった。
「何をしにきた、人間」
「…戦時の謎を解き明かしにきた」
「そうか…ここは西の勇者が眠る場所」
彼の一言一句は緊張感を放っていた。
(西の勇者!?戦争を終わらせた英雄と同一人物の可能性があります!)
「単なる墓荒らしではなさそうだな…。あの方が封印されてから何人かがここにやってきた。迷い込んだだけの者もいたが、稀に、文献をよこせと暴言を吐く連中や戦時の話を聞いてくる輩もいたね」
(妙ですね、あなたは召喚魔法で召喚された魔物のはず。なぜ、そんなに言葉を話し、人のなりをしているのですか)
「小鳥がそれを言うのか。私はもともと西の勇者パトラ•アイリッシュ様の師であり、秘書だった者。彼は赤眼鳥に魅入られて——————」
「戦争の引き金となってしまった」
その一言に、場が凍った。




