14.西の勇者の墓場
「赤眼鳥の呪い?それに止血魔法までかけられて延命措置されるなんて」
「夢でも見てる気分だぜ」
「フロルさん…行っちゃって良かったんですかね…」
メルたちは、低木の陰に隠れて三人を見守る。契約任務だからというよりも、ラッキーに対する単純な好奇心に駆られて追跡を続けていた。
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虹色の羽を羽ばたかせながら、セキレイはラッキーの頭上を飛び回る。
「こいつは何だ?」
「新種のセキレイだね、こんな個体は見たことがない」
(右に同じです。やはり赤眼鳥関連ですかね)
そのセキレイはラッキーの頭上に座ると、突然羽ばたいた。不自然な挙動に、三人は何かを感じた。
一心不乱に飛んでいるようだ。砂埃を散らしながら、獲物を追いかけるサメのように速く、鋭く。
「追いかけるか!」
「君が行くなら、私も!」
「別に来なくてもいいよ!」
「いやいや遠慮はしなくて大丈夫だ、ラッキー君!」
「してない!邪魔かも!」
「じゃま、、?」
(足手まとい?)
「言い過ぎだ!それは!」
後ろの低木裏からガサガサと物音がしたが、ラッキーは気に留めずに虹色のセキレイの背中を追い続ける。
待てよ、俺、腹を…!?
赤眼鳥に全身を咥えられた記憶が掘り起こされ、腹に手を当てる。
(腹部の傷は、赤眼鳥によって止血されました。今はあのセキレイに集中してください)
右肩からロワによる解説が入る。砂埃で前が見えないが、徐々に距離を縮められていた。
「なんか体が軽いような、なんというか…血流が良く回っているような気がする」
(気のせいです、無駄なことを考えず突っ走ってください)
「いやホントなんだって!」
急斜面をスライディングで滑走して、木々の隙間をすり抜け、ラッキーはひたすらに虹色の羽だけを追いかけた。気付けば、人の気配が無い奥地まで駆け抜けていた。
「んっ」
ラッキーは足を止める。視界から例のセキレイが消えた。奇跡のバランスで保たれた岩場を、そのセキレイがすり抜けて、見えなくなった。
「先に行ったのか?」
(岩に挟まったのでは?)
狭い隙間を、ロワが覗く。
(ラッキーさん、これは当たりかもしれません)
「何が?どういうこと?」
ロワの慎重な口調に、ラッキーは息を呑み、右目を隙間に押し当てる。岩が削られて、文字が見える。
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此処に眠るは、名を奪われし勇者。
空を裂き、血を覗き、そして真実に触れた者。
その眼は赤を映し、
その選択は世界を傷付けた。
虹の導きなくして、此処に至ること能わず。
触れるな、呼ぶな、名を問うな。
再びその眼を開けば、
人々は自我を忘れるだろう。
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ラッキーは高揚していた。歴史を封じ込めたドアを蹴り破ったような爽快感と達成感。
「どういうことだ?」
(横にも何かが描かれていますね)
右側は赤眼鳥と、その背中に乗る剣を装備した勇者。左側には水車が描かれている。何やら魔法陣のようにも見える。
「その眼は赤を…って俺?」
(戯けたことを抜かさないでください。墓を作られて歴史を封印されている。これは戦時の重要人物の可能性があります。そうなれば、ラッキーさんとは比べ物にならないほどの…)
「早口オタクになるのやめて」
(オタク…?)
「ああ、こっちの話」
(左の水車は何を示しているのでしょう)
「分かんないけど、これ魔法陣っぽくない?」
ラッキーは外側から岩に魔力を込める。
「ああ、いた!ラッキー君、君は少し足が早すぎ…」
フロルは見た。岩場が光り、そして崩れて、ラッキーとロワが瞬間移動したように消えた。光が落ち着いて目を開けると、岩場はなくなっていた。
「え?どういう…こと?」
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転移魔法。今の魔法技術では誰にも扱えず、伝説の魔法の一つとして言い伝えられた魔法。
(感激です。まさかあれが転移魔法の魔法陣だったということですか)
「感激してる場合か。とりあえずここはどこだ?」
二人は冷風が吹き抜ける洞窟にいた。天井は見えず、広すぎて声も反響していない。壁には動物や魔物の骨が見えて、ところどころ小鳥のような骨も見えた。
「これセキレイの死体じゃないか?」
(…確かにそうですね。そうなればここは…)
セキレイの山岳。二人はその地底に足を踏み入れた。




