11.赤眼鳥 前編
セキレイという鳥がいる。種の異なる無数のセキレイが飛び交う未開拓の地である山岳地帯「セキレイの山岳」は、開拓者が過去の文献を求めて集う場所である。
「俺たちはここで。また会おう」
「うん」
「ロワちゃんとお別れなんてやだ…」
「俺じゃないんだね」
メルたちとは早めに別れて、ラッキーは少し山を登り、上から辺りを見渡す。
見渡す限りの山々。隙間なく山岳が連なり、上を向けば、セキレイが空を埋め尽くすほど飛び交っている。そこかしこにセキレイの排泄物が落ちている。
「お」
ラッキーの足元に、蟻が行列になって並んでいる。
蟻の向かう先にはセキレイの死体が転がっていた。
この山岳地帯の生態系は、セキレイが支配している。植物から昆虫、小動物がセキレイの死体、排泄物を糧にして生きている。
(セキレイがいつどのように繁殖しているのか、セキレイの種類や数、この場所は謎に包まれていますね)
「ロワ…」
(何ですか)
「セキレイと見分けるの面倒くさいからさ、鳥やめれる?姿を変えるというか、そんな感じのことできない?」
(無理です、ていうか見分けてください)
「だよね…」
ラッキーの肩に、六羽のセキレイが停まる。順番待ちをするように何羽か付近をホバリングしている。
「ロワの席、無くなっちゃうかも…」
(!?)
この山岳地帯は、人通りが少ない。開放的な山道を歩き続け、ラッキーたちは心身共にリラックスされていた。
通りすがるのは開拓者と思われるパーティだが、雰囲気が暗いパーティが多い。ときたま登山者のような人も見かけるし、「灯台の影」のメンバーらしき人間もちらほら。
「未開拓の地、とか呼ばれてるくせにそんなに人いないなぁ」
(協会から特別危険地帯に認定されていますし、国によっては近づくことも禁じられているほどの場所ですから。それに今は冬じゃないので開拓者は集まりません)
「マジか、俺も六割くらいの確率で死ぬのか」
(そうなります)
「そうなります、じゃねーよ。死んだら悲しむとか言ってたくせに、一人で俺をこんなとこに連れてきやがって。コンロのやつ、俺を過大評価しすぎだわ」
セキレイの鳴き声と、力強い滝音が聞こえる。
セキレイは水場があるところならばどこでも生息できる。この地帯には、明らかに水場が多い。
「ん?なんで冬じゃないと開拓者が集まらないんだ?」
(それは今から分かります。ラッキーさん、来ますよ)
「うわっ」
大量のセキレイがラッキーの目の前を通過して、奥から巨大な影がちらつく。
(赤眼鳥、セキレイ山岳のキングと呼ばれる魔物です)
竜巻のように魔力が暴れている。赤眼鳥は名前の通り目が赤く、魔法を扱う魔物だ。魔法や衝撃を和らげる魔力で体を覆っている。
「なっ、いや、やばいやばい、こっち見てるって!」
(赤眼鳥は冬眠します。雪降る季節に行かねば、どんな上級開拓者でも致命傷を負わされ、人に対する警戒心が高い魔物なので、そのまま殺される人たちも多いですね。セキレイ山岳の奥地に行くなら、冬であることが絶対条件です)
「今オフシーズンなの!?何でじゃあこんな季節に来たの!?」
春風がラッキーの前髪を揺らす。
(コンロ様はこの魔物が鍵を握っていると言っていました)
「ん!?」
(コンロ様のみが所持する文献に、この赤眼鳥が描かれているページが存在したとか。ラッキーさんの仕事は、この魔物の情報を少しでもいいからコンロ様に繋ぐことです)
「なるほどね…」
(ラッキーさん?)
「…その物言い、ロワもコンロも俺があいつを倒せないと思ってるっぽいな!?」
イレギュラーな事態に慣れ過ぎて、ラッキーの頭のネジは緩くなっていた。そのネジが今、勢いよく吹き飛んだ。
「やってやるよ」
ラッキーは大きく腕を振り上げ、赤く光るセキレイの目を狙って弓を引き絞る。
ユニコーンに乗りながら修行した日々を思い出し、かつて撃ち抜いた無数の的と、その赤眼を重ね合わせ———迷いなく、矢を放った。




