10.冒険者というもの 後編
前衛は狩人のラッキー、剣士のフォルス。後衛は魔法使いのメル。僧侶のアマリリョ。
全員の役割は被っておらず、即席パーティにしてはバランスが取れている。
「よろしく…お願いします…」
僧侶の声が細い。
「あ、今朝言ったことはウソだから気にしないでねメルさん」
「本当に?信用ならないんだけど」
バランスは良いが、雰囲気は悪い。
「それにしてもラッキーお前、どこの組合で狩人やってんだ?冒険者としてパーティに入る狩人なんてほぼ居ないぞ」
「あー、俺はまあ、我流というか、狩人はあくまで借りの職というか」
「なんのジョーク?」
「違うわ本当のハナシ。組合ってそもそも何だ?」
三人が同時に足を止めて、顔を見合わせる。
「は!?狩人やってるくせに組合のことも知らないの!?」
「どんだけ田舎もんだよお前!」
「アマリン!説明してあげて!」
「あ、えっと…」
狩人には、組合——いわゆるクランというものが存在し、食糧となる動物の狩り•売買を主体とするクランもあれば、魔物を狩って町や村から支給を受けて金を稼ぐクランなど数多く存在する。
「有名なところで言うと、『珊瑚の貯蔵庫』とか『魔獣守護団』などですかね…」
「サンゴのちょぞうこ?とやらは食糧売ってそう。魔獣守護団は魔物狩ってそう」
「そうです、分かりやすくていいですよね」
獣道を軽快に抜けて、四人は森の奥深くへと向かう。鹿が枝葉を揺らしている。魔物の気配も感じる。
「おしゃべりはそろそろやめておこう。ここからは協会から危険地区として登録されてる。気を抜くなよ」
「はい!」
「はい」
「…うん」
パーティ経験がないラッキーは、少し遅れて返事をする。対峙した時には感じなかったフォルスのリーダーシップを、直で感じていた。
「水晶魔法」
メルは視界の奥にある草木に杖を向ける。地面から突き出すように巨大な水晶が生成され、葉っぱを散らしながら魔物が姿を現す。
「土蛇だ!地面に隠れる前に仕留めるぞ!」
命令を出しながら、既に距離を縮めていたフォルスは剣を握り、蛇に近づいていく。
(まだ抜かない…)
「居合いってやつか」
土蛇は地面に向かっていたが、段々と近づいてくるメルを警戒して舌を出して攻撃モーションをとる。そのまま勢いよく飛び出して、フォルスの腕に噛みついた。
フォルスは怯んでいない。待ってました、と言わんばかりに左腕を前に押し出して、右手で握っていた剣を抜く。
土蛇の体は切り裂かれて、そのまま死体となった。
「治癒を…」
アマリリョは薬草を取り出して、傷口に押し当て詠唱をしている。淀みのない連携。これがパーティだとラッキーに示すような時間だった。
「あんた、何もしなかったわね」
「お前、せめて一歩くらいは動けよ」
(土蛇は戦利品も芳しくありませんし、人里に顔を出すこともない。戦う意味がないので私がラッキーさんにそう指示したのです)
「戦う意味がない?分かってないな」
メルはロワ見て、肩をすくめた。
「みんなで戦うのが楽しいからやってるんだよ」
「戦う理由なんて何も考えてないよ」
「はい…」
ラッキーは少し、冒険者というものを理解した気がする。戦利品、開拓。そんなものは副産物にすぎない。
「よし、楽しくなってきた。先に進むか」
「「「了解!」」」
声と足並みを揃えて、湖を目指した。
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メルは宿屋で頭を抱えていた。
「何だったんだ…」
結論から言うと、ラッキーとパーティを組むことを諦めたのだ。湖での出来事だった。水浴びをする魔物で溢れかえっていた湖での戦闘。他の三人と比べ、ラッキーだけ俊敏さが飛び抜けていた。
「あんた早すぎ!」
「手助けしようとしたら、逆に足手まといになってしまいます…」
「メル、横!」
剣を抜き遅れたメルは、魔物の餌食となりそうになった。しかしメルの目の前で、魔物は湖に突き落とされた。ラッキーが蹴り下ろしていた。他の魔物を始末しながら片手間で。
「幸運魔法」
そう言ってラッキーは攻撃の後隙を自身でカバーしていた。通常、後衛である魔法使いの役割のはずが、ラッキーは一人で戦い抜いていた。
「メル、ラッキーのことどうする?」
「あの人…ただの冒険者ではなさそうです。組合でも頭を任されるほどの実力者です」
「今回は別の人を探そう。いつか俺らも強くなって、ラッキー•オルデンという男と肩を比べる実力を身につけないとな」
扉をノックする音が鳴り響いた。
「初めまして、冒険者一行。あなた方がご一緒していたラッキー様について少し聞きたいことがあります」
「灯台の影…あんたの組織のやつか?」
「いえ、私共の組織に狩人は一人もございません。ラッキー様は狩人になってまだ月日が経っておりません」
「!?」
「て、てっきり大ベテランかと…」
「あいつは強かったよ。俺ら三人がかりでも多分瞬殺される。魔物なんて溶けるようにやられてったしな」
「私共はラッキー様に興味があります。なぜこれだけの才能を授かっているのか。あなた方にお願いがあります」
「何だ?」
「報酬は金貨1枚。彼を追跡して、同行を観察しておいてください。セキレイの山岳に着けば、私共が前衛となる者を一人派遣します」
下の階の一室では、ロワとラッキーがパンを齧りながら話している。白湯の湯気がほわほわと上がり、この部屋だけ時間がゆっくり過ぎていると感じるほど穏やかな空間だった。
「五条悟みたいになってたな、俺」
(ごじょう…さとる?とは何ですかラッキーさん)
「あっちの世界での有名人。現代最強の術師だよ。まあ作品の中の話だけど。俺にとっちゃ、この世界も作品の中なんだけどな」
光を放つ本に吸い込まれた時を思い出す。
この世界は何なのだろう?考えだせばキリがない。
(ラッキーさんはまだまだ最強ではないので、これからも精進してください)
「手厳しいな、今日は戦利品もごっそり手に入ったしセキレイの山岳に向かう前にここで売ってから行くか」
(…この前のお爺さん、仲間を見つけてこいと言っていましたね。どうするのですか?)
「ああ、それはな、メルたちに協力してもらうことになった。セキレイの山岳まで一緒に行って、現地で解散って感じ」
(なるほど)
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翌朝、馬車が宿屋の先に到着した。
「お前さん、人に好かれるだろう?」
「いや全然?」
「この短期間で仲間を三人も連れてくるやつなんぞ、見たことないぞ」
少しの沈黙を挟んで、爺さんは言う。
「昔、ワシは冒険者だった。自分の好奇心に忠実で、後先考えず突っ走って生きていた。それが至高だった。お前さんは、冒険者ではないな?」
「いや、まあ枠組みとしては冒険者ですよ」
「いいか若造。赤の他人の言うことなんて気にせずに生きろ。冒険者っていうもんは、そういう生き物だ」
「…じゃあ、あんたの言うことを聞かずに、仲間を見つけてこなければ満足だったの?」
「ふっ、そこまでは言っとらんよ」
お爺さんは、静かに鞭をうつ。ラッキーが煮え切らない思いを抱いていると、一匹のセキレイがロワの真横に飛んできた。まるでセキレイの山岳が出迎えているようだった。
冒険者として、ラッキーはセキレイの山岳に足を踏み入れる。




