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ライトハウス•エピック(灯台叙事詩)

勢いよく自転車を漕いでいた。大学に入ったものの、一年もたず留年しかけ、結局は休学した。人生なんてそんなものだと身内には言われるが、そんなはずはない。


 下宿先から近い本屋は嫌だった。行き慣れているし、ショッピングモールの最上階にあるから大勢の人間と出会ってしまう。できる限り人の少ない、ひっそりとした本屋で文庫本を漁りたかった。


「ここからだと駅近しかないか、いや、この先にも小さいけど良さげな古本屋があるな。こんなところにあったか?ま、いっか」


 道を曲がる時も、今日はブレーキをかけなかった。車でも来てくれれば、痛みなく死ねる。そう思い、道路の真ん中寄りを走っていた。Google Mapに表示されていた古本屋まで無心で走り続けて、もう一度スマホを開いてみた。


 先ほど表示されていた場所に着いているはずなのに、現在地の座標点がじわじわとズレていった。


「これだから4Gは嫌いなんだよ」


 スマホの画面を数回叩いて、アプリを落として再起動した。それでも現在地はその場所を示さなかった。


「もういい、座標点が止まるまで走ってやるよ!」


 血管が切れるような感覚に陥った。最近の自分が情緒不安定なのは自覚しているが、どうしても感情が抑えられない。MBTIの質問も「感情にコントロールされていると感じる」と回答すればよかったと少し後悔した。


 数々の交差点を抜けて、見覚えのないコンクリートの建物が増えてきた。大都会東京とはいえ、都心から離れた場所なため、生活感だけが剥き出しの味気ない街並みだった。


 先程Google mapが表示していた位置と異なっていたが、赤色のピンが現在地と重なった。


「止まっ…た?」


 シャッターが半分閉まっているが、暖色のランタンが本棚の隙間に灯されていて、人の気配はなかった。少しのボロさが、古本屋としての魅力を感じさせた。


 扉を開けてみると、店員すらいない、自分だけの空間だった。カウンターにはPayPayのQRコードと貯金箱のようなものがあった。無人販売なのだろう。


「これは流石に日本人を信じすぎじゃないか?防犯カメラも無さそうだし」


 古本屋にしては、一冊一冊が丁寧に本棚に敷き詰められていて、作者ごとに並び替えられていた。文庫本がメインで、奥の棚には辞書や得体の知れない新書が少し置いてあった。


「出版社ごとに分けていないのはマイナスだね。雰囲気の良さだけで及第点くらいはつけられるけど」


 数々の本を見漁った。東野圭吾、伊坂幸太郎などの有名作家の本が一冊もなく、店員の好みが影響しているように思えた。



      『Lighthouse Epic』

 


 出版社も、作者の欄も無いものを見つけた。1番下の段から、しゃがんでそれを手に取った。重い。少し厚さのある文庫本とは思えないほどの重量だった。


「何だ、これ。自費出版なら作者名は書くだろうし、そもそもあらすじすら書いてない。おまけにジャケも興味をそそらない。ていうか、何でこんなに重たいんだ…」


 実家で飼ってる柴犬を抱いてる感覚に近かった。どっしりとした重さを腕に感じながら、おそるおそる1ページ目を開いた。


 その瞬間のことだった。本の内側から、力強い光が滲み出てきた。微かに振動が伝わってきて、指が触れているわけでもないのにページがめくられていった。その度、光度は増していった。


「なんだなんだなんだ…!?」


 脳が何かに侵略されるように、頭が真っ白になって気絶した。無重力状態で、長いトンネルに意識だけが吸い込まれるようだった。


 そして。

 トンネルを抜けた先は、異世界だった。







 

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