令嬢を傷物にして捨てた男に未来はいりません!複数同時多発ナッツクラッカーの裁き
アリス・フォン・リーベルトは、自分が「見た目の冴えない令嬢」だと、誰よりもよく理解していた。
だからこそ、金髪碧眼で社交界の華と謳われる貴公子――エドワルド・シュタインから婚約を申し込まれたとき、奇跡か罠か、そのどちらかだと思ったのだ。
答えは、もちろん後者だった。
エドワルドは次第にアリスの容姿を嘲るようになった。
「努力しても無駄だな」
「その顔では子どもも作りたくない」
そのくせ彼は、アリスの家の財産には異様なほど執着した。理由はすぐに分かった。
──金で囲った恋人がいたのだ。
それだけでは終わらない。
ある日、アリスは後輩騎士と金で雇われたならずものに襲われた。偶然を装って現れたエドワルドは、涙ながらにこう言った。
「お前というやつは……!俺の友人たちと浮気をしていたのか。それも複数人と。 ああこれが、流行りの小説である悪役令嬢というやつか」
被害者を演じるための、完璧な舞台。
アリスはショックだった。
アリスが傷物にされたことを嘆き悲しむわけでもなく、守ってくれるわけでもない。
自作自演の演技で、アリスを悪者として冤罪をかけ、自分は婚約破棄を申し出る……
アリスはその時点でなお、エドワルドに言われるがまま、自分の落ち度を責めた。
傷物にされたことで王家へ婚約解消を願い出ても、エドワルドは言い放つ。
「金が入らなくなる婚約破棄? 冗談じゃない。婚約破棄継続してやる、だが俺は好きな人と一緒にいたい。そうだ、白い結婚というものをしてやろうじゃないか!」
白い結婚という小説が巷では流行っていたのだ。
しかもエドワルドは、3年という期間を儲けて、その間に結婚はするものの、結納金は全部自分が使う、愛人と共に暮らすという。
挙げ句の果てには爵位のない愛人を、アリスの家門に入れるよう要求してきた。
これはさすがにアリスの親が怒ったらしいが。
彼は王家の重臣。立場は圧倒的に上だった。
侮辱、隔離、家族への嫌がらせ。
そして――魔物の森への追放。
そこでアリスは、一人の魔女に出会う。
「魔導ナッツクラッカー、興味ある?」
時は流れ、社交界。
アリスは“姿を消した令嬢”として扱われ、代わりにエドワルドは愛人と結婚式を挙げようとしていた。
その披露宴の扉が、静かに開く。
「ごきげんよう」
ざわめく会場。
呼び出されるのは、エドワルド、あの後輩騎士、ならずものたち。
次の瞬間、魔導ナッツクラッカーが発動した。
――砕かれたのは、未来。
物理的に。
阿鼻叫喚。
祝福は悲鳴へ変わり、白は赤に染まる。
エドワルドとの式で着る予定だった純白のドレスをまとったアリスは返り血を浴びたまま、青ざめた新郎と神父ににっこり笑った。
「おめでとうございます」
そして、静かに告げる。
「これであなたは、物理的に再再度の結婚もできなくなりましたわ。私だけ再婚できないのは不公平だと思いましたので」
アリスは優雅に微笑んだ。
「さあ皆様、出来立てのソーセージスライスですのよ? ああ、でもこんな汚いものは食べられませんわね。給仕の方、すみませんが片付けてください」
アリスは阿鼻叫喚に包まれた結婚式場を後にした。
テーブルの上には、オードブルのモルタデラが並べられていたが、誰もそれ以来口にしないという。




