監視蝙蝠
「暇だ! あ〜、暇だ!」
女ドラキュラは呟いた。それを聞いた女ドラキュラの僕である杖をついた老人は、ある提案をした。
「リリィ様。人間共を監視してみてはいかがでしょう?」
女ドラキュラのリリィはその提案に興味を示した。
「ほぉ、どうやって?」
老人は口笛を吹くと、無数の蝙蝠が羽ばたいて来た。
「この蝙蝠たちで人間の動向を探るのです。蝙蝠たちの情報は超音波によって、リリィ様の元に届けられるでしょう」
リリィは頷いた。
「なるほど、面白そうだ」
リリィは人間の裏の顔が見られると思うと、笑みを浮かべた。
蝙蝠たちは一斉に羽ばたいて行き、人間たちの社会へと旅立って行った……
街では能面の様な顔をした人間共が闊歩していた。ものつまらなさそうなその表情は、見ていて吐き気がする程だった……
そして夜になり、蝙蝠たちが活発になる時刻となった。
あるときは、万引き……
あるときは、空き巣……
またあるときは強盗、殺人などの現場を目撃した。
リリィはその一部始終を黙って見ていた。
しかし、あるとき一羽の蝙蝠が怪我を負って地面に臥した。
そして通りがかった女の子が、その蝙蝠を見つけた。
「お母さん、蝙蝠が死んでる」
その女の子の母親はギョッとした。
「ゲッ! 蝙蝠……まだ生きてるじゃん」
女の子はお母さんにお願いをした。
「お母さん、この蝙蝠家に連れて帰ってもいい?」
お母さんはすぐに否定した。
「駄目に決まってるでしょ!」
そんな母娘が去ってから、数時間が経った。
すると暗い夜道の中、さっきの女の子が一人でやって来た。
その手には傷薬と包帯を持っていた。
蝙蝠は手当を受けると、女の子に抱えられて連れて行かれた。
着いた先は女の子の家だった。女の子は母親にバレないように服の中に蝙蝠を隠した。
「暫く我慢してね」
蝙蝠は戸惑ったが、良くしてくれたので悪くないと思った。
女の子の部屋は一人部屋で押し入れがあったので、その中に蝙蝠を鳥籠に入れて隠していた。
蝙蝠は少し窮屈に感じたが、怪我が治るまでの辛抱と思いジッとしていた。
女の子は寝るときに寂しさからなのか、蝙蝠の入った鳥籠を押し入れから出して、布団の横に置いた。
そして、蝙蝠に話しかけた。
「私、友達が居ないの。だから友達になってね……」
夜が明けて、蝙蝠は飛べるくらい元気になったので、女の子は蝙蝠を鳥籠から出してあげた。
蝙蝠は夜明けの空を飛び回って後で、何処かへ消え去った……
リリィは感心した。
「面白い人間もいるものだな……」
リリィは欠伸をすると、また暇潰しを探すために、杖をついた老人を呼ぶことにした。
その頃、女の子は学校に向かっていた。
リリィは老人と何か暇潰しが無いかと話し合ったが、夕方まで見つからなかった。結局、その話し合いが暇潰しになった。
女の子が下校するとき、黒いバンが止まって、一人の怪しい男が出てきた。女の子は悲鳴を上げる間も無く、瞬く間に連れ去られた。
それを偶然、女の子が助けた蝙蝠が見ていた。蝙蝠は慌てて、女の子の後をつけた。
女の子はあるマンションに連れて来られた。そして鎖で繋がれた。監禁されたのである。
それを見ていたリリィはやれやれと立ち上がった。
夜になり、黒いバンに乗っていた怪しい男は女の子に馬乗りになった。男はパンツを下げて、下腹部を露出しようとした。女の子は悲鳴を上げた。
「誰か、助けてー!!!」
悲鳴を聞いた一匹の蝙蝠は、男に体当たりをした!?
「何だ! この蝙蝠は! 何処から入って来やがった!」
しかし、蝙蝠は男に叩かれて床に落ちてしまった……
すると、窓の外から蝙蝠の群れがやって来た。騒々しい羽音と共に、無数の蝙蝠が一度に窓に打つかり、窓を難なく突き破った。
蝙蝠たちが人の形を成すと、そこからリリィが現れた!?
男は仰天した。
「だ、誰だ! お前は!」
リリィはクツクツと笑った。
「お楽しみのところ、済まないね」
リリィはそう言うと一歩、今一歩と男に近づいた。
男は立ち上がりパンツを履き直した。
「く、来るな!」
リリィの八重歯がキラリと光る……
「人間の血は久しぶりだが、不味そうだな……」
リリィはそう言うと、男の首元に噛み付いた!
「ギャ〜!!!」
男が悲鳴を上げる。リリィは血液を一滴残らず吸って、男の身体は骨と皮だけになった。
女の子は怯えながらも、一部始終を見ていた。
「あ、あなた……誰?」
リリィは優しく笑ってこう言った。
「君の友達だよ。友達になってくれと言ったろう」
女の子は何のことだが分からず、ただ唖然とするばかりであった。
リリィは無数の蝙蝠になり散らばると、その場から姿を消した……
その後、事件は一時は大事になったが、やがて人々の記憶から忘れ去られて行った……
その頃には女の子も学校に馴染んで友達が出来ていた。
女の子が家に帰ると、以前に女の子が助けた一匹の蝙蝠が夕闇を横切って行った。




