第5章(後編)
「正気か?こんなものにサインする奴がいるか」
「頼むから署名しろ、アイザック」
私は罵倒し、すぐに二人の看守が近づいてきた。レインは手で制したが、私に残された時間は少なかった。
「俺には時間がないんだ」レインは苛立った声で言った。
「私なら、お前をこのまま朽ち果てさせたい。そう継母にも伝えた。だがなぜか彼女はまだお前に同情している。ありがたく思え」
ペンを差し出し、低く唸った。
「さあ理性を示すか?それともこの紳士たちに“敵対的”だと扱わせるか?」
「敵対的で結構だ!」
私は叫んだ。
「俺はやってない罪を押し付けられてるんだ!」
「呆れた……お前は父親の木から落ちて、骨まで腐ったか。罪を認める度量もないのか」
挑発には乗らず、静かに言い返した。
「俺の手は血で汚れていない」
だがレインは噛み付いた。
「違うな。看守たちの証言がある。現場にいたお前は、医師の死体の上に跪き、両手も口も血で染めていた。吸血鬼じみた姿だったと。だから制圧が必要だった、と。オフィスの監視映像も残っている」
「馬鹿な!」
だが、彼の確信に満ちた口調の前に、私の動揺は揺らいだ。血がついたとすれば、死体に倒れ込んだ時か、扉の取っ手に触れた時だろう。
だがレインは鼻で笑った。
「口まで血塗れ?お前はいつも口から落ちるのか?」
「それは口紅だ!」
私は必死に訴えた。
「デジレだ。あの女医にキスされたんだ!」
混乱しながらも必死に説明したが、話せば話すほど馬鹿げて聞こえた。
「犯人はあの女だ。デジレだ!」
「時間を無駄にするな」レインは切り捨てた。
「署名しろ。さもなければ更なる刑期を食らうぞ」
「俺じゃない!彼女だ!絶対に!」
「いい加減にしろ!」レインは怒鳴った。
首元の小さなボタンがはち切れそうに膨らみ、毒を吐きながら叫んだ。
「デジレ・デュ・クールは十年以上、独房から一歩も出ていない!お前がどこでその名を聞いたのかすら理解できん!」
私は混乱し、彼女が三号室の囚人かと尋ねかけたが、レインは堪忍袋の緒を切った。
ペンを机に叩きつけ、署名を迫った。
「絶対にサインなんかしない。お前に強制もできない」
「できるとも。私はお前の弁護士だ」
「ごめんだ。お前なんか二度とご免だ」
レインは罵詈雑言を吐き、裁判所が指定する弁護士ならとっくに司法取引に署名していたはずだと告げた。
だが私は選択肢を変えた。
「俺が自分を弁護する」
「馬鹿を言うな。狂人の弁護を裁判所が認めるものか」
「いいや」私は自動的に手を上げ、微笑んだ。
「『狂人』なんて言葉、ここでは使わない」
それが決定打だった。レインは勢いよく立ち上がり、亡霊のように膨れ上がった。
書類を引きちぎるように鞄へ突っ込み、毒を吐きながらペン先を私に突き付けた。
「地獄に落ちろ」
「こちらこそ。二度とお前に用はない」
私は冷ややかに言い放った。
「俺は自分でやる。お前の助けなど必要ない」




