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第6話 すごくストーカーみたいだし……

 廊下の向こうからやってきたエルネスト様との距離がどんどん縮まっていく。


 どうしよう! どうしよう!

 何を話せばいいのかわからない!


 先日はありがとうございましたとか。

 魔術パレード見に行きました!とか。

 あの時はお礼も言えずすみませんでした、実はあの後調べさせていただき……って、すごくストーカーみたいだし……。


 そう考えているうちに彼との距離はもうなくなっていた。


「あ……」

「エミリア様、ですよね?」

「あ、はい……あの、先日はお世話になりました」


 とても無難な答えを言ってしまって、第一声目がこれでいいのかと悩んでしまう。

 もっと気の利いたことが言えない自分に腹が立つ。


「とんでもございません。実はヴァイオレッタ様から何かあった時のために対応してほしいと呼ばれていたのですが、あまりのクズ夫ぶりに手が出てしまいました」

「す、すみません……」


 彼はクールで聖人君主なイメージだったけれど、意外と毒舌ではっきり言うタイプなのかもしれない。

 そういえば新聞記事でも前の婚約者を振ったと噂があったわね。


 その瞬間、少し心がもやもやした。

 彼の婚約者となる人は一体どんな人なんだろう。


「今も、いるのかな……?」

「え……?」


 思わず口に出てしまったようで、私は急いで手と首を左右に振って「なんでもない」という素振りを見せた。

 彼は不思議そうな表情を浮かべたものの、すぐに笑みを浮かべて話を戻す。


「ヴァイオレッタ様からもエミリア様の元夫であるヴァリア伯爵について対処するように言われております。今、準備中ですので少々お待ちくださいね」

「あ、はい……ご迷惑をおかけします」


 彼は私の言葉を受け取ると、ぐいっと私の顔に近づいてくる。


「え……?」

「謝らないでいいんですよ。あなたのせいではありません。あなたはもう自由の身です。ですから、ぜひあなたの新しい生活に希望を持ってください」


 私はハッとして顔をあげた。

 今まで後ろめたい気持ちや元夫への悔しい気持ちに捕らわれていた。


 違う、そうじゃないんだ。

 私はもう私の人生を生きていいんだ!

 新しい生活に前を向いて進みだしていいんだ!


 エルネスト様の言葉が私の胸に響き、そしてどんどんそれは膨らんでいく。

 そうして私は彼に思い切って伝える


「あの! 前を向けたのはエルネスト様のおかげです!」

「え……」

「あなたが私のために一芝居打ってくださって、あなたのパレードをみて心が癒されて……。それで、あなたに救われました。消えそうな自分の存在を繋ぎとめることができました。本当にありがとうございました」


 頭を深々と下げて言った私に、彼は声をかける。


「エミリア様、顔をあげてください」


 顔をあげた途端、彼の大きい手が私の頭に優しく乗せられた。


「生きてください。あなたは一人ありません。ヴァイオレッタ様も私もいます。だから、あなたの人生を楽しんでください」


 彼の言葉にどれだけの人が救われたのだろう。

 この人はこうやってたくさんの人の気持ちを掬いあげていく。


 ああ、やっぱり好きだ。

 私は、この人からもう逃れられない──。

少し短めですみません!


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