第2話 悔しさの涙は伯母様が吹き飛ばす
啖呵を切った私はその足で伯爵家を飛び出した。
結婚生活の思い出を引きずらないために、全ての荷物を置いていく。
ひとまず王都にいる伯母様のもとへ行こう。
王都へは少し時間がかかってしまうが、歩いて行くことにした。
お金も持ち合わせていないのと、それになんとなくただ一人で歩きたかったから。
「この……くそ野郎が……」
何度も繰り返しながら私は王都へ向かう。
ずっとずっとため込んでいた思いを、この悔しい想いを地面にぶつけるように。
これなら貧乏でも家族みんなで仲良く幸せに過ごしていた時のほうがよかった。
私はふいに立ち止まって空を見上げる。
ぽつりぽつりと小さな雨粒が、私の頬に当たって落ちた。
「どうして……」
私の初恋はあっけなく終わった。
最初で最後の恋だ、なんて浮かれながら幸せに過ごしていた。
「馬鹿ね、騙されてるとも知らずに……」
恋愛に奥手で彼の優しさに隠れた本当の姿に気づけなかった。
伯爵様で柔和な笑みが眩しくて、だから、だから……信じてしまう。
だんだん強まってきた雨は、私のワンピースを濡らしていく。
自慢のマンダリンオレンジ色の髪はだらんと力なく垂れている。
『君の髪は太陽のようだね』
そんなことをいつかの彼に言われた。
私の髪色はこの国では珍しい。
きっと祖父が外国の血を引いているから、その影響なんだと思うけど。
「あれもきっと、嘘なのね……」
そう呟く私の瞳に涙がたまる。
「もう恋愛なんてこりごりよ……」
私はゆらりゆらりと亡霊のように、王都の伯母の家へと向かった。
そして、ようやく伯母の家にたどり着いた時には日が暮れていた。
「当家に何か御用ですか?」
「あの……ヴァイオレッタ伯母様……ジェイラルド公爵夫人はいらっしゃいますか?」
「失礼ですが、どちら様かお尋ねしても?」
衛兵の人と話していた時、屋敷のほうから大きな声が聞こえてきた。
「エミリア!?」
「ヴァイオレッタ伯母様……」
伯母様は私のずぶ濡れの姿を見ると、一目散に飛んでくる。
「ごめんなさい、この子は私の姪なの」
「奥様、大変失礼いたしました!」
「いいのよ、さあ、エミリアとりあえず入って!」
「はい……」
私は伯母様に連れられて中へと入っていった。
「はあ!? そんでそいつもちろん殴ってきたんでしょうね!?」
「いや、そこまでは……」
「なんでよっ! もう殴ってボコボコにして回し蹴り食らわせてもいいわよ!」
「伯母様……さすがです」
伯母様に着替えをもらって温かいお茶をいただきながら、仔細を伝えたところ、これである。
昔から逞しい精神力で私も伯母様のようになりたいなんて思っていたけど、やはりまだまだ彼女の域には到達できていないらしい。
「啖呵切ってやってやったと思った自分がなんというか、甘かったです」
「まあ、根が優しいからね。エミリアは。ただ、どうせそんなするやつはただじゃ死なないから、もう一発くらいお見舞いしましょうか」
「……へ?」
この日は疲れて寝てしまった私だったが、翌日伯母様の見事な復讐劇がおこなわれることとなった。




