第1話 旦那様、離縁していただきます!
私は十歳年上の旦那様と暮らしていた。
旦那様との出会いはある社交界でのこと。
貧乏な男爵家の生まれだった私は、その日まで社交界に参加することができなかった。
しかしその日は、「貴族の端くれなんだから婚約者の一人でもいなきゃだめ!」と公爵家に嫁いだ伯母様の計らいでダンスパーティーに行くことになったのだ。
そんな時に私に優しく手を差し伸べてくれた人が、旦那様である。
そんな旦那様から求婚していただき、私は男爵家の娘でありながら伯爵の旦那様に嫁ぐことになった。
旦那様は実家への支援も快く引き受けてくださって、本当にありがたい限り。
『私の一生をかけて、旦那様をお支えたい!』
そう思っていた。
今、この瞬間までは……。
「いやあ~相変わらず、私の評判は良いな! それもこれもエミリアのおかげだ。少しばかりうちより貧乏で可哀そうな境遇だから拾って妻にしてやっただけなのに!」
「奥様に聞こえたら、大変なことですよ!!」
「大丈夫だよ、今日はあいつは実家に戻っているはずだ。今日くらいゆっくり羽を伸ばしてもいいじゃないか」
旦那様は焦っている執事長の前で、堂々と私の悪口を言っている。
彼は私の実家行きが急遽中止になったことを知らない。
だから、私は屋敷で旦那様の帰りを待っていたのだが、まさかそれがきっかけで旦那様の本性を知る事となるなんて。
旦那様がそんなことを……?
私がショックを受けている中、旦那様はまだ執事長と話している。
「ああ~人助けは気持ちがいいな! 今日は『救世主伯爵』と言われてしまったよ。それに、あいつは初心だから『好きだよ』と言っておくだけで愛されてると思い込む。楽でいいよ。あいつと結婚したのは、あの男爵の領地にある『聖域』が欲しかっただけなのにな」
『聖域』というのは、魔術師が誕生したとされる神聖で美しい地。
国の宝とされていて私たちはその聖域の管理を任される一族だった。
まさか、私との結婚はそれ目当てだったの?
今まで旦那様と過ごした日々が思い返される。
優しく差し出された手も、実家を大切にしてくれたことも、それに私を好きになってくださったことも全て噓だったということ?
恋愛に不慣れな私に優しく接してくれて、いつもゆっくりと進めてくれた。
でも内心はそんな私を嘲笑って、「楽でいい」と思っていたの?
私の結婚、間違ってたのかな……。
そして、旦那様は高笑いしながら言った。
「私の中であいつはただの俺の評価をあげるための『道具』だ! あはははははは!」
その時、私の心は我慢の限界を迎えた。
だから、扉を開けて旦那様へ伝えることにしたのだ。
「旦那様」
「なっ! エミリア、どうしてここに!?」
旦那様もそして隣にいた執事もひどく動揺している。
「旦那様、今までそう思っていらしたのですね」
「な、なんのことだ……」
しらを切るおつもりなのね。
そうですか、そうですか。では、もう遠慮はやめさせていただきます。
「旦那様、私と結婚したのは『聖域』を手に入れるためだったのですね。恋愛に慣れていない私を嘲笑って楽しかったですか? 私ではあなたを満足させられなかったでしょう。五年間、いえ、婚約者時代も含めると六年でしょうか。大変お世話になりました。ありがとうございます」
「な、何をいっているんだっ!」
私は丁寧にお辞儀をして言い放つ。
「旦那様、離縁していただきます!」
私の言葉を聞いて彼は急いで私の機嫌を取ろうと肩に手を置いた。
その時、私の怒りは最高潮に達した。
「ふざけんなよ、この詐欺師がっ! 私の初恋奪ったお前は、とことん地獄に落ちろっ! このクズ男がっ!!」
第1話を読んでくださりありがとうございます!!
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最後の一言、書いていて気持ちよかったです!(笑)