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狐の巫女と捨て子の神主  作者: なんてん
5章.天狐として、人として

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55/60

50話.分身

「なるほどなあ」

 泰然たいぜん宮司が病床に臥し、ひどく動揺した事。心を落ち着かせようと手に取った思い出の品々。その持ち主やエピソードを思い出せず、心の拠り所であった記憶達が曖昧な事でさらに精神的に追い込まれた事。恋仲となった樹希を失う未来が恐ろしく、子を成そうと半ば無理やりに迫った事。樹希に拒絶され、半ば自棄やけになって酒を呷った事。酔いの中見た夢で多少落ち着いたが、いまだ自分の心境に折り合いをつけられずにいる事。

 これまでの経緯を宵華ゆうかが赤裸々に語る。それを聞いた六右衛門ろくえもんは小さく唸った。

「天狐いうのは、良くも悪くも個人主義の強い連中やったはずなんやが…なんや、宵華ちゃんは話を聞くほどその印象とちゃうなあ」

「え?」

「ああすまんすまん。そないな事聞きたくて話した訳やないな。申し訳ない」

「それは別にいいの。それよりも」

 失言とばかりに謝る六右衛門の発言が、強く宵華の興味をひいた。

「私、他の天狐とは藍暁あかりくらいしか関わりがなくて」

「そうなんか?そうか…」

 その言葉だけで、六右衛門は宵華の境遇を察したようだった。先ほどよりも幾分か増して申し訳なさそうに眉尻を下げ、言葉を探すようにして視線を彷徨わせる。

 豪快な印象ばかりが先行しそうな彼がそうしているのを見ていると、この狸人の組長は案外繊細なのかもしれないという気になった。場にそぐわない感想だと自嘲の念を抱きながら、宵華は六右衛門の言葉を待つ。

「まあ、言うた以上の意味は無いんや。襲名制の組に籍置いとる儂が言うのもアレやが、一般の家庭で子供に自分の名前付けるなんて文化はあんま見んさかい。個人主義…言うんかは知らんけど」

 諦めたように話し始める六右衛門。宵華は半ば身を乗り出して話に耳を傾けた。

「一応、人間社会にも似たような風習はあるけどな。ウチみたいに襲名制のもんもあれば、なんや海外のどっかでも親の名前継がせるそうやないか」

「でも、天狐のそれはもう少し違うのね?」

「分かるか?」

 湯呑みに口をつけながら、宵華は頷いた。緊張なのか興奮なのか、先程から尻尾の毛が逆立って仕方ない。一族を追われて数百年、まさかこんな所で一族に関する生きた話を耳にしようとは予想だにしなかった。

 膝の上にのせた尻尾を撫でていると、寒いと勘違いしたのだろう和真かずまがひざ掛けを持ってきた。断るのも忍びないので、受け取った。

「せやねん。宵華ちゃんの前でこんな言い方も悪いが、アレはちょっと気持ち悪かったなあ。なんちゅうか、ある人がずーっと生きてるみたいな感覚言えばええんやろか…一回だけな、親子と会うた事があるんや。親は知り合いやったさかい気にならんかったが、子どもがな。親の真似しとる言うか、親そっくりなんや。歳とったらこの人になるんやろなあ、って思てしもたくらいや」

 宵華に心当たりを問いたいのであろう六右衛門は、しかし彼女の境遇を察してか、それで言葉を切ったきり何も言わない。ただ、仮に尋ねられたとしても、宵華には何も答えられなかっただろう。

 初めて知る内容だった。二十歳そこらで追われた身としては、一族について知らない文化の方が圧倒的に多いのだが。

(私の名前も心も、両親が刷り込まれているのかしら…)

 脳裏に浮かぶ昨晩の奇行と共に、怖気のようなものが背筋を伝う感覚があった。樹希を産む。使命感とも呼べるあの考えは、もしかすると天狐のそういった生態故に芽生えたのかもしれない。


「大丈夫か?宵華ちゃん」

 気遣わしげな声にハッと我に返り、宵華は慌てて頷いた。思わぬ一族の事情に戸惑うあまり、深く思考の沼に入っていたらしい。

「え、ええ…初耳だったので、面食らってしまっただけよ」

「それならええんやが…なんや、もの凄い顔で固まっとったもんやから」

「心配には及ばないわ。それにしても、だいぶ話が逸れてしまったみたい」

 衝撃もさることながら興味の尽きない話ではある。しかし六右衛門も組織をまとめる身である以上、いたずらに話を聞き続ける訳にもいくまい。

 無断で神社を出てきた事も思い出し、宵華は本筋へと話を戻す事にした。

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