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狐の巫女と捨て子の神主  作者: なんてん
3章.狐と狸と人間と

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35/60

幕間.縁結びの狸

 ジリリリリリリ―――

 ピピピピピピピ―――

 耳障りな目覚まし時計とアラームの音で、箕山和真は目を覚ました。今日も一日が始まる。

 和真は箕山組組長である六右衛門の息子だが、特に仕事を任されているわけではない。それは彼が役に立たないという事ではなく、和真の裁量でその日の仕事を決めて良いのだ。必要だと判断したところに顔を出してフォローする日もあれば、日がな何もせずに遊び惚ける日もある。ある意味、最も責任を求められる動き方だった。

 しかし商売に対して辣腕を振るう父を見て育った彼にとって、その生活は別に苦しいものでもない。むしろ、自分の力を発揮できるポイントを見つける宝探し感や、何より自分の意思に基づいて動ける自由さが彼には嬉しかった。


 今日も今日とてどこに茶々を入れようかと自宅の玄関を開けると、目の前の柱に見慣れない紙切れ。いつも小綺麗に管理されている賃貸において、部屋のド真ん前に貼り付けられたその白い空間は、異彩を放っていた。怪訝な表情を浮かべながら、和真はその紙に顔を近づける。何やら文字が書いてあるようだ。

『狸の隣人に協力を求む。詳細は事務所にて』

 という簡素な文言と、右下に狐のお面の絵が書かれている。

「なんやこれ…」

 意味が分からないが、自分宛なのは分かる。無視するわけにもいかないだろう。

「まあ、どのみち事務所には顔出すつもりやったしな」

 近所迷惑になっても問題だ。一旦は手紙を剥がしてポケットに突っ込み、父の待つ箕山事務所を目指した。


「おはようオヤジー…って、もしかして?」

 事務所を開けると、応接間の椅子に父六右衛門が座っていた。向かいには見慣れぬ女性。顔の造形に合わぬ、いやに大きな眼が和真に強い印象を与える。

「和真、ええところに来たな。せや、お前の所にも手紙が来とったやろ?」

 六右衛門が振り返り、隣に座るよう促す。失礼します、と女性に断って席に着いた。

「直接の対面は初めましてね。藍暁(あかり)よ。以後、お見知りおきを」

 妙な前置きと共に、藍凝と名乗る女性が口を開いた。若い外見に違わぬ可愛らしい声、それに見合わぬ落ち着いた口調。そこはかとないアンバランスさを感じつつ、自分も自己紹介をする。

「よろしくね。さて、じゃあ六右衛門さん。話を続けましょうか」

 挨拶もそこそこに藍暁が本題に入る。

「といっても、簡単な話だけどね。今日私の姉が来るから、その子のフォローをしてほしいのよ」

「はい?」

 姉のおもりという事か?そんな事を組長に頼みに?

「いやいや藍暁さん、そないな事ならわざわざ僕らに頼まんでも…」

「こら和真。お客様に失礼やろ」

 思わず口を出してしまい、父に睨まれた。

「いや、だってウチは何でも屋やないし、ましてこない探偵みたいな事…」

「正式な依頼いうわけではないんやけどな。引き受けなお互いにまずいんや」

 和真の言葉を遮った父は藍暁に謝罪をした。なぜ、この女性に執心するのか。疑問を抱く息子に、六右衛門は事情を説明した。

「まず、藍暁ちゃんは天狐の一族や」

「!」

「いうまでもなく、このお嬢さんの姉いうんも、天狐の1人やな」

「…なるほどなあ」

 ようやく合点がいった。それならば、引き受けない道理はない。呑気に手を振る藍暁を見やりながら、和真は納得の意を示した。

「受けてくれて嬉しいわ。私の姉、ずっと辺鄙なところに引きこもってるから、都会なんて慣れてないのよね。自分の容姿が目立つ事も知らないはずだから、絶対何かしらの騒動に巻き込まれると思うのよ」

 首をすくめながら、藍暁が話す。それは確かに、人間社会に溶け込む狸人にも具合の悪い話だ。引き受けざるを得まい。

「倅も分かってくれたみたいですわ。そしたら藍暁さん、他に情報はありますか?」

 六右衛門が促すと、2人が下りるであろう駅を教えてくれた。

「その辺やったら、和真の借家も近いな。頼めるか?」

「行かなしゃあないやろ。動けるんは僕しかおらんし」

 今日の段取りが狂ってしまう、と口から出かけたのをすんでのところで堪えた。顔に出てしまったのか、六右衛門にじろりと睨まれたが、こっぴどく叱られるよりはマシだ。

 その後はその2人、樹希という人間と宵華という天狐の話で父と藍暁が盛り上がっていた。それを聞き流しながら、到着予定の時刻に間に合うよう事務所を出た。


 駅に着くと、何やら人だかりができていた。もしやという嫌な予感に顔をしかめながら中心を目指す。

(おいおいマジか…)

 案の定、狐耳をのぞかせて呆然と突っ立っている女性と、彼女をかばおうとしている男性が騒ぎの中心だった。人混みの中で耳を出すなど、間抜けにもほどがある。彼氏なのだろうか?樹希という名前だったか、彼も頼りにならなそうだ。

 ざわざわと聞こえてくる野次を聞く限り、まだ起きて時間もたっていないようなのが幸いだろうか。

(まあ、これも1つのご縁やな…)

 はあ…と1つため息を吐いたあと、和真は騒ぎの元凶に声をかけるべく大きく息を吸った。

「あーー!こんなところにおったー!!」

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