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狐の巫女と捨て子の神主  作者: なんてん
3章.狐と狸と人間と
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27話.つながるご縁

 だいぶ長い事話し込んでしまいました、と六右衛門は時計を見やった。時刻は17時過ぎ、夕刻を指している。

「まあまあそんなふか~い事情があるわけで、少なくとも儂ら箕山組は、天狐の皆さんにはご縁とご恩を感じ取る。せやから、彼らやそのご友人にはなるべく手を貸したい思うとるわけです。とまあ、これが宵華ちゃんや樹希君に手を差し伸べたい思う理由ですな。これで昔話は終わり、だいぶお時間もろてしまいましたな」

 なんかご用で街に来はったんとちゃいます?という六右衛門の問いに、遅まきながら樹希は当初の目的を思い出した。

「あ、そうだ…スマホを買い替えようと思って来たんだった」

「スマホですか。ならちょうど、組の管轄に家電を扱う大型店舗がありますわ。担当の幹部に話をつけときますさかい、和真に案内してもろてください。まあ、年寄りの長話に付き合うてもろたお礼です、いくらか勉強させてもらいますわ。ああそうや、お二人さんこのお香が気に入らはったんやってな?これもいくつか持って帰ったらええ」

「そんなにしてもらっていいんですか?いや、こちらとしては大助かりですが…」

 ずいと差し伸べられる六右衛門の手に若干戸惑いながら、お香の箱と香皿を受け取った。スマホの件も、ただただ興味深い面白いと思って歴史を聴いていた樹希からすれば願ってもない申し出であったが、その分なんとなくきまりが悪い気がした。

 その遠慮を感じ取ったのか、六右衛門はフッと笑いながら話す。

「ええんです。儂ら都合で事務所まで来てもろたところもありますでな。それに、今後もひいきにしてもらえれば、組の利益にもなります。何も損ばっかりとちゃいますさかい、気にせんでください」

 どうやら、将来的な組の利益を考慮しての申し出のようだ。商売人だな、という感想とともに、樹希はその気遣いに安心して乗る事にした。受け取ったお香を、目を輝かせながら見つめている宵華は、はなから申し出に甘えるつもりの様子だったが。


 和真に案内を頼むかたわら、六右衛門は樹希と宵華を再度呼び止めた。

「お二人とも。もしも困ったことがあれば、遠慮なくこの箕山組を頼るとええ。和真や他の組員にも言い含めときます」

 大切な子どもを見るような表情をさせる六右衛門。天狐との関係は分かったが、それは2人とは直接の関係はないはずだ…そう樹希は思った。宵華は一族から追放された身である以上、さらに複雑な心境だろう。ただ、六右衛門が考えなしにそんな事を言うとは思えない。

「なんやそこまでされる理由が分からんいう顔やなあ二人とも。まず樹希くん。千里眼のお嬢さんから、君が身寄りのない子やった事はある程度お聞きしとります。組の中にもそういう境遇のモンがおるからなあ。その辛さは想像できるつもりやし、そんな環境を経て築いたご縁は君にとって何にも代えがたいもんでもあるはずや。箕山組と会うたのも、その一つやろう。繰り返しになるが、儂ら箕山組はご縁を大切にする。君も、この一つのご縁を大切にしてくれたら嬉しいなあ」

 樹希にそう言った六右衛門は、次いで宵華に向き直る。

「そんで宵華ちゃん。まあ、赤の他人から改めて言われるのも嫌やろうけどな。君の経緯もある程度聞いとる。あんの頑固バアさんも、掟だの血筋だの言わんと自分の一族もっと可愛がったったらええんや!…なんて、種族の事によそもんが首を突っ込む気はあらへん。それにそない言うた所で、君に何か良い事が起こるわけでもないからな。とはいえ孤独の傷は深かったろうと思う。身内の繋がりを重んじる狸人からしたら、それは想像もつかん痛みや」

 六右衛門の言葉に、宵華は少しうつむく。わずかに体を硬くした事には、樹希だけが気づいていたようだった。構わずに、六右衛門は続けた。

「君も身内とのつながりがほぼ絶たれとるが、それでも代わりに得たものはあったはずや。寿命の違いで表面的には失われてるように見えるかもしれんが、元々天狐以外の生き物は短命なんや。連綿と続く命の繋がりとご縁いうのは、目に見えん深~いところで続いとる。まあ今は分らんでもええし、目の前のご縁を大切にしたらええ。ただ、それに気づくきっかけが儂ら狸人…というか、箕山組やったらええなあと思う」

 そこまで話して、六右衛門はわざとらしく「あちゃあ、また長話してもうたわ。年取ると説教臭なってかなわんな~」とおどけて見せた。その様子に2人が吹き出してしまい、場の空気が少し和らいだ気がした。そこにちょうど、和真が戻ってきた。先方との連絡もつつがなく終えられたようだ。

「おお和真、おおきにな。じゃあ案内までしたってくれ」

「分かってるよ。親父もそろそろ仕事に戻らな。着信、めちゃくちゃ来とるんと違う?」

 ほんまやなあ、と焦っているのか何なのか分からない口調で、六右衛門は事務所の奥ではなく入口へ向かい始めた。樹希たちを見送るつもりなのだろう。初対面なのに、どこまでも親切な男だ。

「じゃあお二人さん、また遊びに来てください。今日生まれたご縁を、お互い大事にしましょう。和真、この後の案内も頼むで?」

 笑顔で見送ってくれる六右衛門に会釈を返し、樹希と宵華は和真の後ろをついて箕山組事務所を後にした。


「…あ、お菓子全部食べてない。美味しかったんだけどな」

「それはもういいだろ宵華…」

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