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狐の巫女と捨て子の神主  作者: なんてん
3章.狐と狸と人間と

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22話.ファッションショー

「とはいえ、どうしたものか…」

 意気揚々と宿舎を出たはいいものの、樹希も宵華もあてがない。泰然を頼ろうにも、姉も妹もいないし、母のものを借りようとすると、宵華の見た目に合わせにくい気がする。

 悩みながら境内をふらついていると、アルバイト巫女の須々木が前から歩いてきた。事件の時には榊原に突き飛ばされたそうだが、様子を見る限りではもうどうもなさそうだ。

 今は休憩だろうか?ゆったりと歩く彼女も、こちらに気づいたようだった。

「あれ、樹希さんに宵華さん。まだお休み中ですよね?どうしたんですか?」

「ああ須々木さん。実は…」

 無邪気に声をかけてくれた彼女に、事情を話してみることにした。


「そういう事なら、私に任せてください!」

そう言いながら、須々木は宵華の手を引いて女子更衣室まで歩いていく。どうやら、須々木はオシャレ好きらしい。ちなみに樹希は社務所で留守番をしている。

「宵華さんと私って体格が似てるから、きっと私のもちゃんと着れると思うんです」

 須々木は神社の更衣室にも、何着か私服を入れているらしい。一日の間に姿が違うのはそういう事だったか、と宵華は合点がいった。普段周囲の様子に関心の薄い宵華にも、須々木の頻繁な変わり身は印象に残っていたのだ。

 宵華さんは切れ長の目と綺麗なブロンド髪が魅力ですよねー、耳とか尻尾は隠した方がいいかなーあえて見せていきますか?、等と話しながら、須々木は自分のロッカーを開けた。そこにはなるほど何着もの服が幅いっぱいに並んでいる。更衣室のロッカーは比較的広く、一般的な女性の肩幅よりもやや広い程度の幅があるのだが、須々木のロッカーは幅いっぱい埋まる程度には服が詰まっていた。まるで豪族の衣装箱の中を覗いているようだ。

 煌びやかな服の数々に圧倒されていると、須々木はその中から引っ張り出しては宵華の身体に合わせていく。その目まぐるしさに、宵華は目が回るようだった。

「宵華さんは、どんなのが好みですか?着たことなくても、参拝者さんの洋服見たりしますよね、何か気になったコーデとかあります?」

「こ、こおで?」

 洋服の組み合わせです、という説明を受けても、宵華にはピンとこない。いかんせん有象無象を意識して見る事などないので、必然的に彼らの服装なども特段気に留めた事がない。この手の話にはとんと疎いのだった。

「んー、これとかどうでしょう?」

 付いていけない宵華をよそに、須々木のファッションショーはしばらく続いた。


「樹希さん、お待たせしました!」

 意気揚々と須々木が社務所へ戻ってきた。宵華の姿は見えないが…

「おかえり。宵華は?」

「あちらでスタンバイ中です。結構頑張りましたよ?」

 ニコニコと話す須々木が、社務所の入口へ視線をやる。つられて樹希も見ると、宵華が恥ずかしそうに顔だけを出していた。

「宵華さん、そろそろお披露目しましょうか!」

「やっぱりやめない?似合ってるのかよく分からない…」

 ぼそぼそと言いながら扉に隠れようとする宵華を須々木が引っ張り、その姿が樹希の目の前で顕わになる。

 ゆったりしたニットにプリーツスカート?というのだったか、やや長めのスカートを履いている。その上にトレンチコートを羽織って、ふわふわとした帽子で頭も可愛らしく飾っていた。ヒールのあるブーツが歩きにくそうだが、よく似合っている。巫女装束を着ている普段の姿とはまるで別人のようだ。

「可愛い…」

 つい、素直な気持ちが出てしまう程度には、樹希は見惚れてしまった。宵華もまた、その言葉に顔を赤くする。傍から見ていれば、まるで思春期の男女のような2人だっただろう。

「うんうん、そう言ってもらえると悩んだ甲斐があるってもんですね!」

 須々木は満足そうだ。ともあれ、これで街に行くための問題が解消できた。

「須々木さんに助けられたな」

「う、うん…ありがとう、須々木…」

 相変わらずソワソワとしながら、宵華は須々木にぎこちなくお礼を述べた。その様子に須々木はひどく驚いている。

「ゆっ、宵華さんがお礼!はあぁ感動です…!」

 普段の宵華は無愛想という言葉が歩いているような表情の乏しさで、最低限度の言葉しか交わさないほど口数が少ない。それを思えば納得のいく反応ではあるのだが…須々木のそれは少々大げさな気もする。

「私、ここのバイトを始めてからずっと、宵華さんとお話してみたくて。だってこんな綺麗なお顔に可愛い耳と尻尾…いや外見だけじゃないんですけど、とにかくお近づきになりたかったんですよ!」

 早口に語る須々木は、本当に嬉しそうな様子だった。宵華も、呆気にとられながらも満更でもなさそうだ。たまにはこのアルバイトに付き合ってやるのも悪くないか、とでも思っているのだろうか。

「街に出るのは初めてということだったんで、今回は無難な感じにまとめてみました。あと、一応耳と尻尾は目立たないようにしてます」

 何か違和感があると思ったら、宵華の大きな特徴でもある、耳と尻尾が見えないのだ。言われて初めて、樹希は気づいた。横から見ると若干腰のあたりにふくらみがあるのが分かるが、わざわざ視線を持っていかなければ気にも止まらない程度の違和感でしかない。耳の方も帽子にすっぽりと収まっている。

 街に繰り出しても、天狐である宵華のように耳や尻尾に特徴のある人物を見かけたことはなかった。まあ都会なので周囲の他人に関心を持つ者もそういないだろうと思うが、須々木の配慮のおかげで心配事が1つなくなった。

「そこまで考えてくれて、助かるよ」

「とんでもない!こちらこそ楽しく考えさせてもらえました!宵華さんがよければ、また色んなコーデ試させてくださいね」

 宵華はその言葉にぎこちなくうなずきながら、早く行こうと樹希の手を引いた。須々木もそろそろ休憩時間が終わるそうなので、挨拶もそこそこに街へ向かう事にしよう。

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