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本当の記憶

作者: 古数母守

 けたたましいサイレンの音が響いている。慌ただしく人が動き回っている気配がする。誰かが何か叫んでいるが、うまく聞き取れない。そして段々と意識が遠のいて行く。


「気分はどうですか?」

目覚めるとベッドに寝かされていた。看護師が心配そうに私に話し掛けてくれている。

「命にかかわるようなことはありません。しばらく安静にしていてください」

看護師はそう行って部屋を出て行った。部屋の中に取り残された私は横になったまましばらく考え込んでいた。私は事故に遭ったのだろうか? 私は何をしていたのだろう? どこにいたのだろう? 私は必死になって記憶を手繰り寄せようとしていた。その時、脳裏に鮮明な画像が蘇った。足元に親友のKが倒れていた。そして私は血まみれのナイフを手にしてそこに立っていた。私が殺したのかもしれないと思った。


 翌日、私は退院した。検査の結果、特に異常は確認できなかったので退院しても良いということだった。

「お大事に」

そして私は病院を後にした。病院を出てすぐに、私はつけられていることに気付いた。気付かない振りをしてしばらく歩いていたが、やがて立ち止まって後ろを見た。そこには女が立っていた。女は隠れようともしなかった。

「私に何か用ですか?」

私は女に問い掛けた。用があるに決まっている。少し間抜けな物言いだったかもしれないと思った。

「私はKの妹です」

その女は言った。彼女は何か知っているのだろうか? 血まみれのナイフを持って、Kの傍らに佇んでいる映像が蘇った。彼女の兄を殺したのは私だと言いに来たのだろうか? 私はじっと彼女を見ていた。

「あなたは大変なことに巻き込まれています」

彼女は言った。


 彼女の話によると、とある研究機関で記憶を操作する技術が極秘に開発されており、一般人を対象にしたフィールドテストが実施されているということだった。Kが血まみれで倒れているという映像もその記憶の操作によるものらしかった。つまりKを殺したかもしれないという私の記憶は捏造されたものということだった。

「その研究機関の中心人物が兄なのです」

彼女は言った。Kがそんなことに関わっているとは知らなかった。そもそも彼が死んだということが情報操作なのだと彼女は言った。

「私たちは兄とは違います」

彼女はその研究に巻き込まれて被害に遭った人々を救済する組織に所属しているということだった。そして私は彼女の組織で治療を受けることになった。そこで捏造された記憶をすっかり取り除いてくれるということだった。

「気分はどうですか?」

治療が終わった後、彼女は言った。血まみれのナイフの記憶はすっかり除去されていた。

「なんだか、すっきりした感じがします」

私はそう答えた。だが言葉とは裏腹に私は大きな不安を抱えていた。果たして今の記憶は本当の記憶なのだろうか? これからずっとそんな悩みを抱えて生きて行くことになりそうだった。

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