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17 智花と二人で青く光る看板を目印に歩いた

 智花と二人で青く光る看板を目印に歩いた。コンビニはそんなに遠くになかったので、少し歩いただけで、もうそこの角を曲がればコンビニというところまで来た。そのころには、僕と智花は二人ともからあげへの期待がマックスになっていたので、僕と智花にしてはめずらしく、かなりうきうきしながら角を曲がったのだが、コンビニの駐車場は車でいっぱいで、コンビニの前には地元の若者たちが何十人もたむろしていた。地元の若者たちは智花をすごく見てきたので、智花は慌てて僕を見た。僕も慌てて智花を見るところだったけど、あんまり慌てるとこういう場合はだめなような気がしたので、慌てなかった。

「伸時、これは、あきらかに、わたしたちは運が悪かったみたい」

「そのようだ」

「でも、ひょっとすると、わたしたちの運が悪いわけではなくて、夜の温泉街に地元の若者たちがたむろするのは常識で、だから、あまり人が歩いていなかったのは、そういう理由かもしれないわ」

「智花、落ち着いたほうがいい」

「でも伸時、地元の若者たちが、わたしをすごく見てくるわ」

「それは、智花がいま、湯けむりエフェクトで星取ったマリオ状態だから、仕方のないことだと思う」

「こういう場合、どういう行動を取ったらいいと思う」

 僕は考えた。智花も考えた。

「普通に考えると、余計なトラブルを避けるために、何か用事を思い出したふりか、電話がかかってきたふりをして、旅館に戻るのがいいと思う」

「でも、それは伸時の考えじゃない」

 僕はうなずいた。

「伸時の考えを言って。わたしの考えも、伸時の考えと、きっと同じだと思うから」

「僕は、からあげが食べたい」

「わたしも、からあげが食べたいわ」

「じゃあ、予定どおり、からあげを買おう」

「うん。地元の若者たちは、まだわたしをすごく見てるけど、あの大人数でいきなりわたしを襲ってくることは、ないような気がするわ」

「僕もそう思う」

「でも、かなりの確率で、からかわれる気がするわ」

「僕もそう思う」

「それでもいいの? からかわれて、何も言い返さないで帰ると、わたしも伸時も、一生尾を引くことになるわ」

「僕と智花は、コンビニで売ってるからあげを買うだけだから、何もからかわれる理由はない。からかうほうが、間違っている。だから僕は、からあげを買う」

 智花は、四秒くらい僕を見た。

「わかった。でも、わたしが、地元の若者たちに引きずり回される恐れがまったくないわけではないから、手をつなごう」

「手をつなごう」

 僕と智花は手をつないで、コンビニの中に入った。地元の若者たちが、全員僕と智花のあとをついてきて、コンビニの中に入ってきた。コンビニの中に他の客はいなかったけど、コンビニの中は地元の若者でいっぱいになってしまって、僕と智花も地元の若者みたいになっていた。

 僕と智花はレジに行って、レジにいた地元の若者みたいな店員に、からあげをふたつください、と声をそろえて言った。

「からあげは、夜は作ってないんですよ」

 地元の若者みたいな店員は、からあげの機械を指さした。たしかに、地元の若者みたいな店員の言うとおり、からあげの機械は空っぽだった。

「そんな……」

 智花がレジに手をついて、うなだれた。

「電子レンジで温めるからあげなら、ありますけど」

 地元の若者みたいな店員は、僕と智花の後ろのほうを指さしたけど、そこには地元の若者たちがたむろしていたので、地元の若者みたいな店員が何を指さしたのか見えなかった。でもたぶん、カップに入っている冷たいからあげを指さしたのだろうと思った。

 僕は智花の背中を何回か叩いた。

「智花、智花、カップに入っている冷たいからあげでもいいか」

 智花はうなだれたまま首を振った。

「カップに入っている冷たいからあげは、はずれじゃないけど、あたりじゃない……。わたしは、レジで売ってる、温かくておいしいからあげが、食べたいの……」

 僕は地元の若者みたいな店員を見た。

「他に、からあげを売ってるコンビニは、ありませんか」

 地元の若者みたいな店員は、何故か笑った。

「この辺は、二十四時間やってるコンビニも少ないから、近くにはありませんよ」

「そんな」

「そんな」

 僕はうなだれた。もともとうなだれていた智花は、ショックのあまり、腰が抜けそうになっていた。

「こんなことになるなら、散歩になんか、くるんじゃなかった……」

「智花、残念だけど、あきらめて、もう帰ろう。からあげは、明日どこかのコンビニで買って、電車の中で食べればいい」

 智花はうなずいた。うなずいてから僕を見た。

「そうね。明日まで待つだけで、からあげが食べられるわね」

「からあげが食いたいのかい」

 突然、地元の若者のひとりがしゃべり出したので、僕と智花はびっくりして、これは、地元の若者同士の会話なのだと思うことにした。

「からあげが食いたいのかい」

 でも地元の若者のひとりは、明らかに僕と智花に話していたので、僕と智花は振り向いた。

 僕と智花に声をかけた地元の若者は、コンビニの中にいるのに、あやしいものを吸っていた。

 僕はちょっとだけ前に出て、地元の若者にうなずいた。

「僕と智花は、からあげが食べたい」

「この時間でもからあげを売っているコンビニを、おれたちは、知っているんだぜ」

「ほんとうか」

 地元の若者はうなずいた。

「歩いていくには、あまりにも遠すぎるから、車で連れて行ってやるよ」

「ほんとうか」

 地元の若者はうなずいた。

「そのかわり、ひとつ、約束してほしいことがある」

「なんだ」

「おれに、からあげを、ひとつくれ」

「え」

 いままで黙っていたくせに、智花がいきなり驚いていた。

「からあげは、たぶん五個入りなのに、そのうちのひとつを、くれと言うの?」

 地元の若者はうなずいた。

「そうだ」

「わたしと伸時がからあげを買うから、あなたは、からあげを二個も、無料で食べようと、考えているの?」

「そうだ」

「なんて虫のいい考えを、する人なの……」

 ビールを飲んだからもともと赤かった智花の顔が、耳まで赤くなってきて、しかもぷるぷると震えだした。

「智花、怒らないほうがいい」

「だって、この人は、からあげを無料で食べようとしている」

「仕方がない。からあげは、おいしいし」

「伸時は、怒ってないっていうの? わたしと伸時は、あろうことか、かつあげをされているのよ?」

「怒っているに決まっている」

 僕は地元の若者たちをにらんだ。智花も地元の若者たちをにらんだ。

「おい地元の若者たち」

「おい地元の若者たち」

「僕と智花は、明日からあげを嫌になるほど食べるから、今日は食べない」

「わたしと伸時は、明日からあげを嫌になるほど食べるし、やっぱり晩ごはんのあとに油ものを食べるのはよくないから、今日は食べない」

「ばか」

「ばか」

 地元の若者たちが怒り出しそうだったので、僕と智花は身の危険を感じて、走ってコンビニの外に出た。僕と智花は浴衣に下駄なので、追いかけてこられたら捕まるのがわかっていたから、がんばって速く走った。地元の若者たちは、僕と智花を追いかけてきたけれど、途中でスタミナが切れたみたいで、旅館までは追いかけてこなかった。

 智花は無事に旅館にたどり着いて、ほっとしていた。

「いい運動になったけど、お風呂に入ったあとなのに、汗をかいたわ」

「僕も汗をかいたし、下駄で走ったから、足が痛い」

「そう言われてみると、わたしも下駄で走ったから、足が痛いわ」

「いまからまた大浴場に行って、水風呂で足を冷やしたほうがいい」

「わたしは、部屋のベランダについている露天風呂にも入ってみたいわ」

「それは、やめたほうがいい」

「どうして、あ」

 僕はうなずいた。

「そう。部屋のベランダについている露天風呂に入ると、父さんに覗かれる」

「それは、嫌だわ」

「僕も、嫌だ」

「それは、わたしがお風呂に入っているのを、おじさんに覗かれるのは、伸時は嫌だという意味?」

「僕がお風呂に入っているのに、父さんが智花が入っていると勘違いして、覗かれるのが嫌だという意味」

「そう」

 智花が僕と智花の手を見た。

「もう、手を離して」

 僕は智花の手を離した。

「早く部屋に戻って、タオルと新しい下着を持って、大浴場に行くわ」

「そうすべき」

「そうすべき」



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