14 四時に門の前に集合してバスで旅館に行った
四時に門の前に集合してバスで旅館に行った。僕の家族と智花の家族は甲羅の良さがわかるみたいで、甲羅を絶賛してくれた。父さんが、伸時か智花ちゃん、どっちでもいいけど、おじさんにちょっとだけ、甲羅を背負わせて、と言った。智花は父さんを無視していたから、僕もあえて父さんを無視した。
予約してあった旅館に着いた僕の家族と智花の家族を、紺色の着物を着た女の人が何人も出迎えてくれた。そのまま部屋に案内されたが、部屋は三階にあって、二部屋あった。僕は当然、一部屋に僕の家族、もう一部屋に智花の家族が入るものだと思っていたが、智花の母さんが部屋の前で、部屋割りはどうしようかしら、と言い出した。
「山田と後藤で分けるか、男と女で分けるか、グーとパーで決めるか、コインを投げて決めるか、どうしようかしら」
父さんが、グーパー、グーパー、と叫んだ。
智花の父さんが、お父さんは、男と女で分けるのがいいと思うよ、と言った。
母さんが、でも普通は山田と後藤で分けるわよね、と言った。
智花が、わたしも、普通に山田と後藤で分けるのがいいと思うわ、と言った。
僕が、でも山田と後藤で分けると、四対二になる、と言った。
「ばか」
智花が僕のボディを殴ろうとした。僕は腰を引きながら手で防御した。
「伸時くん伸時くん、どうして山田と後藤で分けると、四対二になるの?」
「だって智花は山田メダルを」
「言うなばか」
智花が僕のすねを蹴ろうとした。僕は後ろに走って避けたけど、智花が追いかけてきたから、もっと後ろに走った。
智花の母さんが、仲居さんが見てるから、けんかはやめなさい、と叫んだ。
僕と智花は、智花の母さんが怒ると怖いので、けんかをやめた。
母さんがまとめに入った。
「じゃあ、山田が右の『ひぼたんの間』、後藤が左の『みずばしょうの間』にするわ。誰か何か文句がある?」
父さんが手を上げかけたけど、結局ちゃんと上がらなかった。
部屋に入るとき、僕は智花に、智花はこっち、と言おうかと思ったけど、顔が本気で怒っていたのでやめておいた。
ひぼたんの間は六畳の部屋と八畳の部屋がふすまで仕切られてくっついていて、しかもベランダに露天風呂までついていた。荷物を置いて、甲羅を外して、お茶を飲んでくつろぎながら旅館のパンフレットを見ていたら、ベランダの露天風呂より大浴場のほうがよっぽど立派なことがわかった。それで僕と父さんはひぼたんの間から廊下に出て、みずばしょうの間にいた智花の父さんを誘って、三人で大浴場の男湯に行った。大浴場は地下一階にあったので、僕と父さんと智花の父さんはエレベーターに乗って地下一階まで下りた。父さんは冗談で女湯に入ろうとしたけど、僕と智花の父さんが相手をしなかったから、ひっこみがつかなくなったみたいで、赤いのれんの前で止まっていて、女湯から出てきた女の人にすごい顔で見られていた。
大浴場には露天風呂もサウナもあったので、僕と父さんと智花の父さんは露天風呂とサウナを行ったり来たりした。父さんと智花の父さんはサウナを出るたびに水風呂に入っていたけど、僕は水風呂はあまりに冷たいから、逆に体に悪そうに思えて、入らなかった。露天風呂の竹の壁の向こうには女湯の露天風呂があると推測されたので、父さんは竹の壁の上のところをもの欲しそうに眺めていた。僕は、父さんは女湯を覗きたいのだなと思ったけど、父さんには女湯を覗く勇気も行動力もないと見なしたので黙っていた。
風呂から上がって、浴衣を着て、大浴場を出て部屋に戻ると、ひぼたんの間に夕食の用意がしてあった。さっきまでなかった机があって、座布団が六つ敷かれていたので、誰かがあらかじめ旅館の人に、山田と後藤は夕食を一緒に食べる、と言っておいたのだなと思った。母さんと智花の母さんと智花も大浴場に行っているみたいで、僕たちはおなかが空いていたけど、三人が戻ってくるまで食べずに待っていないと怒られるとの考えで一致したので、食べずに座って待っていた。
十分もしないうちに、母さんと智花の母さんと智花がひぼたんの間に入ってきた。母さんが、お待ちどおさま、と言った。母さん、智花の母さん、智花の順番で部屋に入ってきたのだが、智花がすごいことになっていた。
「智花……」
「なに」
智花は僕の前に座って、首をかしげた。
「なに、伸時、なに」
「どう言えばいいか、わからない」
「なに、伸時、なに、気になるから、言って」
僕は、僕の右側に座っている父さんを見た。父さんももちろん智花がすごいことになっているのに気づいていた。父さんは智花に、智花ちゃん、やばいね、湯けむりエフェクトでかわいさが三倍、セクシーさは十倍で、すごくかわいいね、と言った。
「そうなの」
智花は、父さんのほうはまったく見ないで、僕の目を覗き込むようにした。
「伸時も、おじさんと同じ事を、思っているの?」
「僕は、かわいさ五倍、セクシーも五倍くらいだと、思っている」
智花は不思議そうな顔をした。
「どうして。いつもはお風呂上がりに会っても普通にしているのに、どうして」
智花の母さんが智花を見た。
「それは、温泉と家のお風呂の違いよ」
母さんが智花を見た。
「あと、浴衣ね」
智花は、智花の母さんを見て、母さんを見てから、僕を見た。
「そうなの」
「たぶんそう」
「そう」
智花は自分の髪の毛を撫でた。
「それは、そんなに、悪い気がしないというか、どっちかというと、うれしいわ」