1 五日連続でサッカー部に行ったら疲れた
五日連続でサッカー部に行ったら疲れた。疲れたのでまっすぐ帰って、ごはんを食べて、風呂に入って、髪の毛を乾かして、歯を磨いて、電気を消して寝ていたら、智花から電話がかかってきた。
「もしもし」
「もしもし」
「どうかした」
「眠れないの」
「不眠症」
「そうみたい」
「めぐすりを、飲むといい」
「飲んだけど、眠れないから、あそぼう」
「いやだ」
「どうして、そんなことを言う」
「僕は、五日連続でサッカー部に行ったから、すごく疲れてる。しかも、すでに寝ている」
「じゃあ、あいだをとって、一時間だけあそぼう」
僕は少しのあいだ考えた。
「一時間だけなら、いい」
「いまから行くわ」
僕の部屋のドアが開いて、智花が入ってきて、電気をつけた。
「早い」
「じつは、部屋の前から電話してた」
智花は椅子を持ってきて、ベッドの隣に座った。
僕はベッドから体を起こして、壁にもたれた。
「何してあそぶ」
智花は少し考えた。
「あっちむいてほいがいい」
僕と智花はあっちむいてほいを始めた。あっちむいてほいをしていたら、智花が、そういえば、と言って、あっちむいてほいをやめた。
「サッカー部は、日曜日もあるの」
「あるときもある。ないときもある」
「今週の日曜日は、あるとき?」
「今週の日曜日は、ないとき」
「今週の日曜日に、わたしと、瑞歩と、小池くんと、四人であそぼう」
「瑞歩と小池くんって、だれ」
「瑞歩は、わたしの友達で、小池くんは、瑞歩が好きな人」
「瑞歩と小池くんは、付き合ってる」
「瑞歩と小池くんは、付き合ってないけど、瑞歩は、小池くんと付き合いたいと思っているから、わたしは、くっつけちゃえ、と思ってる」
「だから、さりげなく四人であそぶ」
「そういうこと」
「何してあそぶ」
「シベリアワールドに行くのはどう」
「あの、寒そうな夢の国」
「行ったことがある?」
「行ったことはない」
「行ってみたくない?」
「行ってみたいかも」
「じゃあ行こう」
「そうしよう」
僕と智花はあっちむいてほいを再開した。だんだんと手をあげるのがめんどくさくなってきたので、途中からは全部口で言った。途中で母さんが部屋に来て、蛇が出るからもう寝なさい、と言って、ドアをバタンと閉めた。
「そんなに、うるさくしてないのに」
智花はドアをにらんだ。
「智花はまだ、眠くならない」
「眠くならない。もっとあそぼう」
「でも、もう一時間たったから、帰って」
智花は僕をじっと見た。
「じゃあ、すぐに寝られる裏技を教えて」
僕はすぐに寝られる裏技を考えた。考えていたら、寝そうになった。頭がかくんとなったところを、智花が手で押して戻してくれた。
「考えていたら、寝そうになる」
「どういう意味」
「どうやったら、寝られるかを、考えていたら、寝そうになった」
「どうやったら寝られるかを考えることが、寝そうになることなのね」
「いまは、そうだった」
「複雑に思えるけど、単純なことなのね」
「そのようだ」
智花は椅子から立った。
「わかったから、わたしは帰る」
「智花は、もう寝られる?」
「たぶん、眠くなったら、自然に寝る」