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第九話 俺なりの対策

 旅館でのアルバイトを始めてから、一週間が経った。

 だんだんと仕事も覚えてきて、褒められることが多くなり段々と従業員の人たちとも、仲良くなり始めているのを感じる。

 旅館での生活は勿論苦労も多いし慣れないことばかりだけれど、案外楽しい。

 

 ただし、気をつけないといけないことも増えた。

 その大きな要素が学校生活だ。

 流石に、旅館に住み込みで働いているとバレたら注目の的になってしまうと考えた俺は、そもそもアルバイトをしていること自体を悟られないようにした。


 車は学校近くでも目立たないところに止めてもらって、少しその辺を歩いて時間を潰してから行くことによって織原さんと登校時間をずらすようにしている。

 このことにより、今の所俺が車で登校していることは一切バレていない。

 これで織原さんも誤解や噂に悩まされることはないはずだ。


「そんなことせずに堂々としておけばいいだろう」


 やれやれと首を振る陽子さん、この学校の生徒会長だ。

 この空き教室に、気づけば三日連続で訪れている。

 すっかり常連というわけだ。

 彼女に関しては、俺がアルバイトに誘われるタイミングを聞かれていたため、話せる相談役のような立ち位置になっている。


「いや、噂や憶測ってものを舐めすぎだね。

 そういう恋バナみたいなものは高校生全員好きだから。

 でっち上げてでも、話題にしたいものなんだよ」

「ふーん、そういうものかな」


 俺の力説も陽子さんには刺さっていないようで、つまらなさそうに受け流される。

 まあ、理解してくれとも思わない。

 実際、自分のためにやりたくてやっていることだ。


「それに、織原さんだって嫌だろうし」

「はあ……全く、慎也は良いやつなんだがな」


 陽子さんは、俺の肩に手を置く。


「良いか、これは私からのアドバイスだ。

 慎也は人の気持ちを想像しすぎる、最早妄想の域だ。

 案外、人はもっと強いし優しいよ。

 だから、織原さんのことも自分のことももうちょっとくらいは信じてあげていいんじゃないかな」

「うーん、どうなんだろう」


 確かに、クラスメイトと喋る機会なんてほとんど無かったし、どんな人かも実はよく分からない。

 それでも、俺と関わったことで不幸になってしまう存在がいるとしたら恐ろしくて仕方ない。

 その対策をすることは悪いことなのだろうか。


「納得いかないって顔だな。

 それでも、きっと分かる時が来ると思うよ。

 慎也は、想像以上に皆に好かれる何かを持っていて私自身もこうして、会いに来てしまうほどの魅力的な人間だ」

「ありがとう、って何か恥ずかしいな」

「まあ、また落ち着いたらことの顛末を教えてくれ」


 そう言って、今日も颯爽とその場を去る陽子さん。

 その後ろ姿はいつもよりずっと大きく見えた。

 織原さんは一体、俺のことどう思ってるんだろう。

 ……聞かないで決めつけて、それこそ結果的に嫌な思いをさせてしまっているのかもしれない。

 ちゃんと、話すべきなのかな。


 その日の放課後、色々と考えることもあって頭の中をフル回転させながら織原さんを待つ。

 ……あれ?、先生の手伝いがあると言っていた日ですらもうちょっと早く来てくれるのに。

 俺は普段、一番乗りで教室を出てしまう。

 だから今クラスがどんな状態か分からない。

 織原さんがいる場所で思いつくのは教室か、職員室くらいか。


 空き教室に近いクラスの教室には十歩くらいでつく。

 そこには、やっぱり織原さんがいた。

 周りにいるのは彼女の友達なのだろう。


「ねえ、一つ聞いても良い?」


 織原さんの友人らしき人がワクワクと上擦った声で質問をしているようだ。


「沙織ってさ、日端くんと付き合ってんの?」


 この時、俺が今までコツコツ積み上げて来た情報が崩れ去っていく音がした。

 やっぱり、高校生の噂の広まり方って恐ろしい。

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