第四十三話 本気で
「というわけで、サンプル的に料理を何個か用意してきました」
今日はクリスマスイブ、つまり終業式前日。
他の人たちはそれこそクリスマスムードを楽しんでいる頃だろうが、俺たちは構わずパーティの最終調整をしていた。
とりあえず、俺も役割を遂行しようとこれまで練習してきた自信作の料理を食べてもらう。
「……いやうま」
「凄い、本当に美味しいです」
皆が各々感想を言い合ってるが、総評的に言えば美味しいということらしい。
自分が美味しいと思っていても、口に合わないこともあるためその段階は突破していて一安心だ。
陽子さんがじーっと料理を見つめていて、つい気になる。
「どうしたの、陽子さん?」
「……いや、何か一つイベントがある度に慎也がスキルを得てるなと思って」
「先輩って極度の凝り性って感じしますよね。
普通一回のクリスマスパーティにここまで練習してきませんよ」
……俺もここまでやれるとは思っていなかった。
まあ、料理に関しては元々好きなものだ。
ここまでスキルを上げれて、嬉しい気持ちも大きい。
「あれ、そういえば沙織は?」
沙織にも食べてもらいたかったのに。
彼女は最初の方は生徒会室にいたはずだったのだが、どうやら何処かに行ってしまったらしい。
……陽子さんも、どんどん顔が真っ青になってきてるし探しにいくとするか。
沙織が用事のありそうな場所……職員室に玄関に、クラスの教室に、まあ後は空き教室か。
色々な場所を探してみたが、結局空き教室に彼女は一人で居た。
窓の外から、ボーッと景色を眺めている。
「沙織、どうしたの?」
「え……ああごめん。
そろそろ戻るよ、ちょっと待ってて」
やっぱり元気が無さそうで、気になって隣に座る。
「もしかして、陽子さんが女将さんを目指してるって言ってたの気にしてるの?」
「……何?どういうこと?」
あれ、どうやら違うらしい。
俺も陽子さんも完全に先走ってしまったようだ。
「……ああ!
確かに、陽子ちゃんそんな話してたよね。
……でも違うよ、私は織原旅館が好きだから存続して欲しいと思ってたから。
陽子ちゃんが女将さんとして残ってくれるならむしろ嬉しい!」
「じゃあ、何で最近元気ないの?」
「あんまり、誰かに言うほどの悩みじゃないんだけどね」
降ってきた雪を目で追う沙織。
その表情は不安に染まる。
「私ね、夢とかないの。
今、何を頑張ればいいかよく分かんない。
陽子ちゃんと慎也がテストで本気になったりしてる時、私はなあなあにやって、それで終わり。
皆みたいに、熱量を持って取り組める何かって私には一つも無い」
何だか、分かる気がする。
俺も前は、ただただあの空き教室で動画を見たりして過ごしていた。
それは、今に比べれば全然楽で縛られるものも無かったけど、このまま何も無いままなんじゃないかって不安にもよく襲われた。
それでも、そこから救い出してこうやって沢山友達が出来て、今こうやって楽しく俺が過ごせているのは沙織のお陰だ。
「だったら、クリスマスパーティ。
何か思いっきりやってみない?」
「え?」
沙織も少し困惑している。
まあ、妥当にアドバイスするなら色々経験してみるとかやりたいことを考える時間を作るとか、そんなところなのかもしれない。
でも、これは俺がここまでで学んできた。
沙織に出会ったから見つけられた手段だ。
「何が何だか分からなくなるくらいがむしゃらにやってたら、案外やりたいこと見えるかもしれないよ」
「……そっか。
三輪田祭の時とか、期末テストの時の慎也みてたら本当にそうなのかもって思ってきた」
沙織は立ち上がって、俺のことを指差す。
「じゃあ、それこそ勝負しよっか。
私と慎也、どっちがクリスマスパーティに来たお客さん喜ばせられるか対決!」
まさかのここで勝負宣言。
そういう展開は予想していなかったけど、沙織が元気になったみたいだから、まあいいか。
その後は、すっかり元通りの沙織と生徒会室に戻る。
「ただいまー!」
「ごめんな、沙織!!」
泣きながら抱きついてくる陽子さん。
この後、彼女の誤解を解いて泣き止ませるのに一時間かかった。




