第四十話 調理担当
「うん……やっぱそうだよね……」
膝から崩れ落ちる沙織。
昨日のクリスマスパーティの予定決めでは、自分の父親が料理を担当してくれると豪語していたが、流石にそんな上手い話はない。
匠さんからはあっさりNGを貰ってしまう。
「まあ、二十五日は終業式でクリスマスだからなぁ。
それなりにお客さんも多いだろうし、学生は全員休みにしちゃってるから、厳しいよ」
うん、匠さんの主張があまりに正当すぎる。
むしろ、あの時沙織は何であんな自信満々に提案することが出来たのか。
「お、そうだ。
慎也君、明日の弁当って頼めるかい?」
「はい、余り物とか使って良いもの指定さえしていただければ」
「了解、また後で話そう」
そんな感じでゆるりと話題は転換される。
だが、結果的に料理に関することは白紙になってしまったわけだ。
「……ねえ、慎也。
お弁当の話ってどういうこと?」
「え?ああ。
たまに、沙織と俺の弁当作ってるんだよ。
匠さんがどうしても忙しいタイミングとか」
「……ええ!?
嘘でしょ、言ってよ!!」
ああ、そういえば沙織には特に何も言ってなかったな。
別に美味しそうに食べてたし、何も聞かれなかったらあえて言う必要もないと思っていた。
「じゃ、じゃあさ」
「沙織!ちょっと早くして!」
「あ、分かった〜!
……じゃあまた夜行くね?」
伊織さんに呼ばれてそのまま仕事に入る沙織。
さて、俺も気合い入れて今日も頑張りますか。
「それでね、たまに私のお弁当も慎也が作ってたんだって〜」
「ほう、じゃあ明日は私も食べることができるのか?」
「うん、なんか苦手とかあれば聞くよ」
これまた習慣化してしまいそうで恐ろしいが、俺の部屋には沙織と陽子さんがいる。
さっき何か言いかけていたことを聞いてみる。
「で、あの時なんか思いついたの?」
「うん、つまりお父さんが認めるくらいには慎也は料理得意なんでしょ?
だったらさ、慎也をリーダーとして私たちで料理を用意しちゃえば良いんじゃない?」
「まあ、クリスマスパーティをやった時には生徒会が料理を担当した、なんて事例もあっりしたな」
え、もしかして今俺に凄い仕事量が降りかかろうとしているのか?
最近、めちゃくちゃ頑張っていたから今回は比較的楽にいこうと思っていたのに……。
「……まあ、色々と話し合わないといけないけど。
それで行くんなら頑張ってみる」
「勿論、今回は他の学校行事に比べるとそんなに気合いを入れすぎる必要もない。
最悪、どんな形であれ概ね楽しいと思われれば良い。
だから、基本的にはお菓子メイン。
その他、当日の準備期間に余裕を持って出来るものを範囲として、作ってもらうことにしよう」
流石陽子さん、話し合いでこんなに頼れる人はいない。
まあ実際煮物みたいな時間かける奴は厳しいだろう。
……とはいえ、メニューなんてどうやって決めよう。
「じゃあ、明日にでもその趣旨を皆に伝えよう。
異議はあるか?」
「「なし!」」
というわけで、綺麗に話がまとまったわけだが今日のはお弁当を早朝から作りながらも頭を回し続ける。
「どうした、何だか真剣な顔だな」
隣で、大量の朝食を作っている匠さんがそんなことを聞いてくる。
「はい、クリスマスパーティの料理。
俺が作ることになったので」
「ほお、そりゃあいい!」
匠さんはどことなく嬉しそうだ。
「とりあえず、メニューを考えなきゃいけなくて。
今アイデアを出してたんです」
「そうか、準備期間は一時間から二時間って所か。
……慎也君、料理教わる気ある?」
「もしかして、教えていただけるんですか!?」
「ああ、慎也君は器用だからね。
良い料理人になれそうな素質を感じるんだ。
今のうちに仕込んどかないとな!」
匠さんは豪快に笑いながらそんなことを言う。
何故か料理人にされそうになっている部分は気になるが料理は趣味レベルで好きだし、悪い気もしない。
何よりプロから料理を教えてもらう機会なんてそうそう無いだろう。
「お願いしたいです」
こうして俺は、クリスマスパーティというプチイベントのためだけに、プロに弟子入りすることになった。




