第四話 帰ってくる日常
昨日は本当にとんでもない一日だった。
今朝目覚めて、あまりに現実感のない出来事たちに夢だったのではないかという疑問すら残る。
でも机の上には、二つ食べられた痕跡のあるおまんじゅうがあって、どうやら思い込みではないらしいと不思議な気持ちに包まれた。
リビングに出てくると、当たり前に物凄い静けさで昨日の夜とのギャップに驚いてしまう。
「今日ってどうなんのかな……」
全く読めない一日、というのも最近はそう無かったため不安をかき消すように、強く顔を洗って色々な準備を済ませておいてから、ようやく家を出た。
それからおおよそ十分、イヤホンをつけながら向かう学校までの道はやけに短く、何の問題も無くクラスまで辿り着くことが出来た。
イヤホンを外してみれば、想像以上に周りはザワザワと騒がしくて、皆朝からよくそんなに元気でいられるなと感心すらしてしまう。
「おはよう」
昨日よく耳に入った声に、つい反応してしまう。
織原さんがクラスメイトたちに挨拶して、そのまま会話を続けているようだった。
「香織ちゃん、昨日の夜どうしたの?
皆で、通話してたんだよ〜」
「ああ、色々あって……最近、旅館も忙しくてさ」
「あー、そうだった。
何か疲れたとかなら頼ってよ、遊び行くくらいなら出来るからさ」
「うん、また誘って」
やっぱり他の人との会話を聞いてみる限り、織原さんは物腰の柔らかい、お淑やかな大和撫子と言うイメージだ。
俺もあんな人物だったと気づけなくても無理はない。
と、目の前の椅子が引かれて俺の方を向きながら誰かが腰を下ろす。
「おはよう」
「おはよう、昨日は悪いな」
俺の目の前に座ってきたのは、山城大輝。
まさしく、昨日俺が待っていた友達というのがこいつである。
一応謝罪は入れておいたが俺たちはお互い気を遣わない関係性であり、しょうもない理由で先に帰ったりすることも珍しくない。
実際、今回も大輝は気にしていないようで
「それよりさ、最近めちゃくちゃハマってるオンラインゲームがあってさ……勿論やるだろ?」
「やらない」
こんな風にすぐに話題を切り替えてくる。
基本的には仲の良いオタク友達という感じだが、俺はあんまりゲームとかをやるタイプじゃないため、大輝にゲームに誘われて、断るという今の件は何十回とやっている。
「ちぇ、せっかく学校でもやれるのにさ」
「あー、大輝の部活のやつ?
他の部員のパソコン借りて壊したらどうすんだよ」
「お前、いつの時代の人間だよ。
とにかく、俺は今日から部室引き篭もるからなー」
まあ、こんなこともよくある話だ。
大輝はこんな風に言い出したら、絶対に曲がらない。
今回もどれくらいハマり続けるかは分からないが、少なくとも一週間くらいは、空き時間全てを部室で過ごすのだろう。
はぁ、あそこは飲食禁止だから行きたくない。
空き教室は贅沢に、一人で独占させてもらおう。
そのまま時は流れて、お昼の時間。
宣言通り、部室に向かって消えていく大輝を見送った後俺はいつもの空き教室に入る。
俺は自分のペースで黙々と動画を見ながらご飯を食べるのが、結構好きだ。
画面をスクロールしながら、今日見る動画を優雅に選んでいく。
トントン、急に扉が叩かれた。
珍しいな、大輝のやつもしかして部室の鍵とか持ってなかったのか?
……いや、もしかして織原さん?
勿論、別に嫌なんて気持ちは一切ない。
ただ、昨日織原さんと話せていたことにまだ頭の整理が追いついていないのだ。
それに、よくよく考えたら普通にクラスの人気者と会話をするということ自体が結構緊張する。
朝の会話を聞いていた俺は、尚更そんな気持ちになってしまっていた。
「誰かいるよね、失礼するよ」
しかし、現れたのは大輝でも織原さんでもない。
だが、俺はその人の姿をよく知っていた。
「突然すまない、私は渕崎陽子だ。
君が、日端くんだよね」
渕崎陽子、俺たちの学年で一番有名と言ってもいい。
何故なら彼女はこの学校の生徒会長だからだ。
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