第三十七話 これからの陽子さん
学校の玄関入ってすぐの場所、そこには掲示板がある。
そこには、沢山の資料や部活勧誘のポスターが貼ってあったが、今日だけは大々的に一枚の紙が貼ってあった。
それを見ているのは、陽子さん。
彼女は結果を確認してから教室に向かって歩き始める。
皆がそんな彼女を慰めるかどうか悩んで、声をかけられなくなっていたが、本人だけは吹っ切れていたように笑っているのだった。
後期の生徒会長は、三辻さんに決まった。
「とはいっても、もうちょっとだけ仕事あるんだがな」
「あー、来年までは引き継ぎかなんかあるんだっけ?」
「そう……とはいっても次の会長真依だしなぁ。
私よりもよっぽど優秀だからな、正直引き継ぐことなんか無い」
そんな風に話す二人の声を助手席から聞く。
まあ、どうせ三辻さんのことだからよっぽどのことが無い限り、生徒会も安泰だろうなぁと思う。
さて、そんなことより今は何故陽子さんが車に乗っているかについて話さないといけない。
今日の昼、陽子さんが突然言った。
「私を正式に、織原旅館でアルバイトさせてくれないか」
沙織が連絡を取ってみると、とりあえず今日来れるか?ということだったらしい。
用事が済めば、すぐに家まで送ってくれるということで陽子さんも了承、そのまま放課後を迎えた。
「でも、わざわざ呼び出すなんて何だろうね?」
「うーん、慎也みたいに面接とかあるのかな」
まあ、俺の場合は落とすための面接だったわけだが。
日程調整?とかそんなところだろうか。
とりあえず、疑問は尽きないまま旅館に到着する。
「お母さん、ただいま〜。
陽子ちゃん連れてきたよ!」
伊織さんは、その声に反応して顔を出す。
今日は確か、夜まで予約客は居ないんだっけか。
「じゃあ、陽子さん。
それから、2人もついておいで」
伊織さんに誘われるままに、ついて行ってみるとそこは織原さんたちの居住スペースのようだ。
そのまま伊織さんの部屋に招待してもらうと、そこは綺麗な和室で、凄く落ち着く場所だ。
正座で並ぶ俺たちの真ん中、陽子さんが座る位置に薄い箱が置かれる。
「開けてみて」
陽子さんが箱を開いてみると、口を押さえる。
俺も覗き込んでみるが、それは綺麗な着物だ。
「私が昔着てた着物を仕立て直した陽子さん専用の着物。
どう、中々綺麗でしょ?」
「……はい、本当に」
「それじゃ、改めて。
これから、よろしくお願いします」
丁寧な所作で頭を下げる伊織さんに呼応するように陽子さんも頭を下げる。
彼女にとっては嬉しすぎるサプライズと共に、バイト仲間が一人増える運びとなったのだった。
次の日、時間はお昼休み。
いつの間にか日常に戻った俺たちは、今日もダラダラと会話を交わしながら、ご飯を口に運ぶ。
ただ、そこには陽子さんの姿はない。
「陽子ちゃん、今日はどうしたのかな?」
「まあ、何だかんだ忙しい人だからな」
と、そんなことを話しているうちに陽子さんが顔を出す。
「あ、陽子ちゃん。
もうご飯食べ始めちゃってるよ〜!」
「すまんすまん、ちょっと連れてきたい奴がいたから。
ほら、入ってこい」
「ちょっと、私は会長と過ごせるだけで充分なんだけど」
新たに入ってきたのは三辻さん。
俺たちを見て、照れたように笑う。
そんな様子を見ていた藤垣さんが、俺の方を睨む。
「あの……これって!
……また、先輩の知り合いの方だったりします!?」
「うん、三辻さんね」
背もたれに向かってグダリと崩れ落ちる藤垣さん。
それを見た三辻さんは言う。
「大丈夫よ、私が愛してるのは会長だけだから……」
「あー、三辻さんって陽子さんの前だとこんな感じだったんだ」
「そうだぞ、今回は真依に凄い振り回されたからな」
どうやら、流石の陽子さんも勘付いて三辻さんを問い詰めたらしい。
そんなことされたら……まあ、三辻さんは絶対全部言うだろうな。
そんなことを考えてると陽子さんに肩を掴まれた。
そのまま、耳打ちされる。
「今回のことありがとな。
……結構格好良かったぞ」
俺は驚いて教室の端まで後ろずさる。
顔は真っ赤だ。
そんな俺を見て、陽子さんは悪戯っぽく笑うのだった。
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