第三十六話 生徒会選挙
体育館には全生徒が集結し、がやがやと賑やかさを演出する。
その中でも一際緊張してしまっている俺は、何か出来るわけでもなく二人の友人の出番を待つ。
先生の掛け声に一旦、全員が静まり返りその場に座らされた。
ステージはよく見える、これから始まる色んな思いの詰まった戦いをその目に焼き付けろと言わんばかりに。
「それでは、生徒会選挙を始めさせていただきます」
遂に、始まりが告げられる。
ステージ端に、待機する二人の女性が見えた。
まず最初にステージ中央まで堂々とした態度で出てくるのは、陽子さんだ。
緊張をしている感じはしない、というかそういうタイプではないこともよく分かっている。
マイクの前に立ち、頭を下げた。
これから、演説が始まるのだ。
「まずは二年三組、渕崎陽子さんお願いします」
皆、陽子さんに目を奪われている。
俺も最近、あまりにも身近すぎて忘れかけていたが彼女は目を惹く程の美貌だし、立ち振る舞いも非常に美しい。
そんな彼女から発される力強い声は更に周りを引き込んでいく。
「演説に入る前に一つだけ、私と三辻さんとはライバルとして、ここまでお互い努力してきました。
各々、会長を決めるに当たって様々な観点から決めていくことになると思います。
ですが、どうかこの演説の内容を第一に考えていただけると嬉しく思います。どうかそこだけ、お願いします」
つまり、これは正々堂々やろうという宣言らしい。
こういうことを出来ちゃうのは、やっぱり格好いい。
「では、まずは私が今年も会長になってやりたいことですが……」
そうして話し始める陽子さんの言葉には説得力がある。
何よりも、前年度会長として成功を収めていた部分が大きいのだろう。
三輪田祭を例に出したイベントの改善案や前生徒会で挙げられた不満点を活かした新提案。
そのどれもが、納得出来るいい案だと思わされる。
「……最後に、今回の生徒会においても更に学校をよくするために動ける組織を目指して動いていきます。
どうか、そのトップを私に任せていただけるのであれば清き一票を入れていただけると幸いです。以上です」
パチパチパチパチ!
大きな拍手が上がる中、陽子さんは壇上から降りる。
正直に言って、陽子さんに任せない理由がないほどに完璧な演説だった。
手を抜けないというのは、嘘じゃないらしい。
「次に二年一組、三辻真依さんお願いします」
三辻さんの番が回ってきた。
明らかに、陽子さんに比べて身体は震えている。
当たり前だ、普通はこんな場に立てば緊張する。
それでも、大きく息を吸うと彼女の顔つきは変わった。
「えー、生徒会長に立候補しました三辻真依です。
去年は副会長という立場からこの学校を見てきました。
その上で、改善しなくてはいけない部分も多くあると思います。
どうか、私の話を聞いて頂けると嬉しいです」
若干の緊張感……正直に言えば出だしは陽子さんの方が綺麗といったところだろうか。
ただし、内容に入るとその印象は変わっていく。
「まず、分かりやすい部分で言えば春の部活動勧誘。
場所や時間帯によって、大分新入生の入りに差があったことを感じた部活動も多かったと思います……」
生徒の中でも、目が変わったり少し身体が動いたり……反応を見せている人が数人出てくる。
三辻さんの主張は非常に親身だった。
活動に関わっていない人や、教師陣には伝わりづらいようなそんな視点。
視野が広くて、それを理解する知性を持ち合わす彼女らしい主張だと思う。
部活勧誘に留まらず委員会関連のこと、イベント実行委員会の苦労。
そんな共感性の高いアイデアがどんどん生徒たちに伝播していく。
「……私はこのように皆さんの意見を取り入れながらも、先ほどのようなアイデアによって、更に学校生活が快適に送れるよう支援していく所存です。
もし、そこに活路を見出していただけるなら私への投票をお願いします」
パチパチパチパチ!
誰も、こんな風になるとは思っていなかっただろう。
今年も陽子さんで別に良い、そんな空気だった。
しかし少しずつ周りは悩み始めて、ついに票数が割れようとすらしている。
皆が少しざわめく中、三辻さんは頭を下げる。
俺の目を見て、やり切ったとウインクしてくる彼女に俺も賞賛の拍手を浴びせる。
……さて、俺はどちらを選ぶべきか。
悩みどころだ。
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