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第三十三話 報酬

「織原旅館、何だか久しぶりに来たな……。

 本当に、良い場所だ」


 車から降りるなり、大きく息を吸い込む陽子さん。

 確かにここは、本当に空気が美味しい。

 俺も最初に来た時、同じことを思った。

 ただ、そんなにゆっくりもしていられない。

 当たり前に、旅館は今も動き続けているのだ。


 早速旅館に入ると、伊織さんが俺たちを待っていた。

 陽子さんも深々と頭を下げる。


「陽子さん、今日は本当にありがとうね」

「いえ、今日一日よろしくお願いします」

「そうだ、前回は急ピッチでバイトに入ってもらったから裏方全般を任せていたけど、今日は表の仕事もある程度して貰わないといけないの。

 だから、浴衣を着てもらってもいいかしら?」


 確かに、沙織もバイトの時は必ず浴衣に着替えている。

 陽子さんの目はやっぱりキラキラと輝く。

 演劇部で着物を見た時も同じような反応を見せていたし好きなのかもしれない。


「それじゃ、とりあえず私についてきて。

 他二人はいつも通りね」


 おっとそうだった、急いで準備を進める。

 今日もきっと、それなりに忙しいだろうし陽子さんと話せるとしたら、夜くらいになるだろう。


「おーい、慎也君。

 とりあえず、皿洗い頼めるかい」

「はい、わかりました!」


 空が真っ暗になり、ようやく仕事が終わる。

 そういえば、結局あの後陽子さんの姿を見かけることは無かったな。

 俺は普段裏方として動いているため、あの二人とは仕事が被ることも少なく、夜ご飯を食べるタイミングや休憩のタイミングも結構違う。

 ……というか、一気に数人が休憩に入ってしまえばピンチに陥ってしまうほど、ギリギリの状態でやりくりしているのだ。


「おーい、慎也」


 と、噂をすれば陽子さんが俺の元へやってきた。

 美しい着物に身を包む彼女の姿は非常に絵になる。

 ついつい、目を奪われてしまうほどだ。


「……ってどうしたの?」

「ああ、どうやら慎也の部屋の隣に私が泊まるらしい。

 伊織さんはまだ仕事中だから、とりあえず全部慎也に聞いてくれと言われた」

「そういうことね」

「まあ、それも着替えた後で良かったんだが。

 一応、慎也にも見せたくてな。どうだ?」

「うん、よく似合ってるよ」

「だろ?」


 とりあえず、陽子さんの着替えが済むのを待ってから色々説明する。

 部屋の場所から日用品の場所。

 それから、温泉を自由に使っても良いこと。


「おお、それは良い。

 早速、今日の疲れを洗い流すとしよう」


 そんな感じで、俺も風呂に入り疲れを癒す。

 ……ふう、陽子さんもとりあえずは心配いらなそうだ。

 後は、今日の夜雑談混じりに彼女の本心が聞きたい。

 俺がここまで頑張ってきたことの総決算だ。


 風呂から出て、部屋に戻って少しすると沙織からメッセージが届く。

 

 ―とりあえず、そっち行くね

 

 そのメッセージの数分後には、俺の部屋に沙織がやってきた。


「ここまでやってきてあれだけど……陽子さん話してくれるかな?」

「うーん、分かんない。

 そもそも、三辻さんが言ってることだって勘違いかもしれないし、ここまでやって話したく無いことだったら仕方ないとも思う」


 トントン、扉が叩かれる。

 さっき、沙織が読んでくれたのだった。

 扉を開けると、陽子さんがいて中に入る。


「これは所謂、夜ふかしってやつか?」


 陽子さんはこういう体験も初めてのようで、凄くワクワクしているようだった。

 その後は、お菓子を開けて少しずつつまみながら雑談。

 時間を忘れるくらい楽しい時間だったが、それでも目的は忘れず、遂に話題を出す。


「陽子さんってさ、実際生徒会長になりたいって思ってるの?」

「……どうしてだ?」

「いや、皆からの推薦で立候補したって聞いたから」

「そっか、やっぱりここまで仲良くなっちゃうと分かってしまうものか。テスト前もそんなこと聞いてきたもんな」


 陽子さんは観念したかのように両手を上げる。


「慎也はさ……明日暇か?」

「うん、特に何も無いけど」

「じゃあさ、二人で遊びにでも行かないか?

 ……デートってやつだ」

「「デート!?」」


 沙織と息ぴったりに同じ言葉が飛び出す。

 そんな俺たちを見て、嬉しそうに笑う陽子さん。

 

 人生というのは本当によく分からない。

 最近までライバルとして競い合っていた、人望が厚くて美人な生徒会長。

 気づけば、そんな陽子さんとデートに行くことになってしまったのだから。

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