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第二十九話 大好きな人

「なるほど、それでテストの点数で戦うことになっちゃったんだ。……それも、あの会長と」

「うん……」


 時刻はおよそ十時頃、バイトが終わった後にはなってしまったが、今日の昼休みあったことの報告を含めて三辻さんに、通話で勉強を教えてもらっていた。


「ふふ、話を聞いて欲しいってだけだったのに。

 まさかこんなに飛躍しちゃうなんてね。

 ……まあ、会長のことだからそう簡単に心の内を明かしてくれるとは思ってなかったけどさ」


 そう、元はシンプルに話を聞きたかっただけ。

 それが気づけばバイトに誘うことになっていて、気づけば俺が陽子さんと得点で競い合うことになっていた。

 もっと良い方法あったよなぁ……正直少しくらいは後悔もある。


「でも、まあ。

 これは俺個人の話になっちゃうけど。

 こうやって、本気で陽子さんと戦えるのは案外ワクワクする部分もあるよ」

「……ありがとう。

 私も私のためにお願いしたんだから、最後まで勉強に関しては面倒見させてよね」


 こうして数回関わる機会を持ってみて。

 三辻さんは想像以上に陽子さんに対して愛がある。

 勉強の手は止めないように、それでもどうしても聞きたくなってしまって、つい言葉が漏れる。


「三辻さんは、どうして陽子さんのためにこんなことしてるの?」

「私?……そっか、聞きたいんだ。

 私と会長の感動のストーリー……!」


 ん?何だが三辻さんにスイッチが入った気がする。

 ……それでもまだエピソードを聞きたい気持ちが勝るため、一旦無視しよう。


「私ね、去年も会長をかけて戦ったの。

 今思えば、結果は惨敗に決まってた。

 それでも、その時は私の方が勉強も出来て誰よりも学校に貢献してるのに……ってそんなことを思った」


 その当時は、彼女ももっと堅物だったらしい。

 勿論、本人が言う範囲だし俺も一年生の頃はそんなに興味も持たずに、投票したし実際はどうだったか覚えていない。

 それでも、やっぱり陽子さんは皆からの人望も厚かったし、それに応えるだけの能力もあった。

 今思えば仕方のないことだ、そう彼女は言う。


「それで私、つい周りに会長のこと悪く言っちゃって。

 それを繰り返しているうちに、逆にいじめられるようになっちゃって。

 遂には、ジュース頭からかけられて体操服も盗まれて授業にも行けず、教室にただ一人でポツンと座ってた」


 ……あまり想像したくはない。

 考えるだけでも胸がざわついて仕方ない。


「それで、気づいたら目の前に会長がいた。

 多分、誰かから話を聞きつけたか偶然見かけちゃったかか、私にはよく分からないけど……。

 会長は私のこと抱きしめて延々と泣いてた」


 通話の先から聞こえる三辻さんの声は涙ぐむ。


「私の身体もうベトベトで、顔も涙でぐちゃぐちゃで。

 そんなことになっちゃったのも会長の悪口言ったことが原因で。

 それなのにそんな私のこと抱きしめてくれて。

 それで、私って馬鹿だなぁって。

 気づけば、あの人の背中を追いかけてた。

 その時、副会長に立候補してた人がいなくてもう一回募集しようってなってたんだけど、会長が私を推薦した……してくれた」


 陽子さんらしい、そんなことをふと思う。

 俺も何度救われたか、分からない。


「だからね、私は今度こそ勝つよ。

 会長が背負ってるもの、少しでも私に背負わせて欲しいから。

 だから、お願いします。

 日端君も、この勝負奇跡でも何でも勝ってください」


 赤点ギリギリの俺が、毎回順位一桁の陽子さんに挑むなんて相変わらず無謀な話だ。

 それでも、俺には勝たないといけない理由が結構あってしまうらしい。


「それで、さっきのページって終わった?」

「……あ」


 三辻さんの思い出を聴いていた頃から、全く進んでいなかったその問題にようやくペンが走る。

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