第二十七話 隙はない
副会長である三辻さんからの依頼を受けたものの、今日一日で真意を聞くことはできなかった。
そもそも陽子さんは、簡単に隙を見せるタイプでは無いし、あえて自分の悩みを人に言うわけでも無い。
どっか一日作れれば良いが、それこそ他の皆がいる中で聞くのは逆効果な気がした。
自然に二人でがっつり喋る空間を作る。
……うーん、ちょっと考えつかないな。
「慎也?
何かぼーっとしてるけど、大丈夫?」
「……うん、何か少し疲れてるのかも」
我に返って、窓の外を見る。
今は帰宅中の車の中だった。
相変わらず距離感の近い沙織が、俺を心配してくれたとはいえ一気に距離を詰めてきて、身体をもう動かせない。
とりあえず、大丈夫であると伝えるとようやく離れてくれる。
だんだん見慣れてきた景色の移り変わりを眺めていると、そろそろ旅館に着くだろうと予測できる。
実際、大きく外れることはなく少し時間が経てば旅館の輪郭が見えてきた。
「それじゃ、今日も頑張ろうね!」
「だね、よーし」
早急に着替えを済ませて、バイトに入る。
そこからは目まぐるしく、いつもの仕事が続く。
掃除を済ませたり、洗濯物を出したり。
そんな忙しさにピリオドが打たれたのは八時くらいのことだった。
「お疲れ様……はぁ」
丁度、近くにいた伊織さんも疲れで眉間に手を当てる。
確かに今日は、休めるタイミングは無かったように思えた。
「慎也君みたいな子、やっぱりもう一人欲しいわぁ」
「え、これから何かあるんですか?」
「ほら……これから冬の長期休暇でしょ?
それを今の人数で超えなきゃいけないってのも中々憂鬱なのよね……」
「ああ、長期休暇は確かに忙しくなりそうですね……」
「本当、情けない話なんだけど……。
慎也君、冬休みも本当お願いします」
まあ元々冬休みだからといって、アルバイトの日程を調整しよう……みたいなことも思っていなかった。
いつものぐうたらな長期休みに比べれば、アルバイトがある分、まだ少しは張りのある生活を送れる気がする。
伊織さんの言葉に流されるがまま、頷いた。
それから数時間、ようやくバイトを終えた俺はいつも通りのルーティンで寝る前の準備を済ます。
その後は思い出したように、三辻さんからの依頼に頭を悩ましていた。
「うーん、趣味が近いから小説のことで誘ってみる……。
勉強を教えてもらう体で……あー、どうしよう」
やっぱりあんまりしっくり来ない。
それこそ、趣味や勉強に頼ってしまうとそれ中心で話題が回ってしまって、上手くいかない気がする。
「慎也、ちょっといいかな?」
扉の向こう側から、沙織の声が聞こえる。
最近はよくあることだ、すぐに扉を開けて部屋に入れてあげる。
「お疲れ、どうしたの?」
「……やっぱり、何かあるんでしょ?」
沙織は俺の目をじーっと見つめて、逸らそうとしない。
……まあ口が軽いイメージも無いし、どちらにせよ何かしら悩んでいるのはバレているらしい。
ここは、新たな意見を取り入れてみてもいいかもしれない。
「実は……」
ここまでの流れを全てしゃべり終わると、沙織は心配して損した、という風にグダリと体制を崩す。
「何だ、そんなことだったのか。
トラブルに巻き込まれてるとかじゃなくて良かった〜」
まあ、ある意味じゃ巻き込まれているのだが。
そのまま動かない沙織は、何かを考えているのだと察して持ってきてくれたお菓子に手を伸ばそうとするが、その手を思いっきり掴まれる。
反射的に手を逃がそうとするが、ガッチリ掴んだままキラキラした目で彼女は言う。
「あるじゃん、見てよ今のこの状況!」
「この状況……?」
今の状況?
……かなり感情が揺れ動くこの状況に何かヒントがあるというのだろうか。
…………あ。
気づいた俺の顔を見て、沙織は答え合わせをする。
「そう、旅館バイトだよ!
仕事終わりのこの疲れた状況だったら、隙も出ちゃうしリラックスしながら話すこともできる。
私だって、もう状況を知ってるわけだから上手く誘導できるよ!」
丁度、伊織さんもバイトが足りないみたいなことを言っていた。
とりあえず、お試しバイトという体で陽子さんを連れてくることは可能かもしれない。
俺が倒れてしまった時に、泊まりで働いてくれたこともあったし、旅館バイト自体不可能じゃなさそうだ。
「よし、それじゃ明日誘ってみよう!」
「うん、そうだね。
後それから……そろそろ手放してもらっても良い?」
「明日のお昼も勿論陽子さん来るよね……そしたら私から話した方が良いのかな……?」
色々考える彼女の手は、一切離れようとしない。
そんなこんなで、勢い付いてしまった沙織との作戦会議は深夜、伊織さんからの喝があるまで続いたのだった。
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