第二十五話 学習ノススメ
ふと三輪田祭のことを思い出す。
あれは良い経験だった、クラスメイトとも気づけば普通に話せるようになったし学びも多かった。
最終的には大成功とも言える結果になったんじゃないだろうか。
……ここで勘違いしないで欲しいのは、俺は決して現実逃避をしているわけじゃ無い。
「これは、教え甲斐がありそうだな……」
強く握られすぎてくしゃくしゃに皺が寄った俺の小テスト。陽子さんは嫌な笑顔を浮かべている。
「……実際、こんなに悪いとは思いませんでしたね」
「私もちょうど真ん中くらいの順位だけど、今回は満点だったしね……」
「まあ、手遅れだろ普通に」
各々の罵詈雑言が終わると、陽子さんが何とか小テストの紙を伸ばして机に叩きつける。
「とりあえず、今日からは勉強会だ。
こいつには……そうだな、平均点くらいは取ってもらうことにしよう」
俺は、天井を見上げる事しかできない。
……あえてもう一度言おう。
三輪田祭、あれは良い経験だった。
出来るならあの頃に戻りたい、どうしてこんなことに。
「それでは、指導を始めるとしよう」
「……よろしくお願いします」
まあただ、陽子さんは毎回テスト順位一桁台の実力者だ。
こうして教えてもらえるということは、実はかなり凄いことなのではないだろうか。
もしかしたら俺も、本当に平均点を取れるのかもしれない。
「……これって何から教えれば良いんだ?」
あれ、何かもうダメそうだ。
俺の小テストをジッと眺めたまま数秒時が経つ。
「私はどうやら、指導者には向かないらしい」
諦めが良すぎる陽子さんは、香織と大輝の顔を交互に数回見た後、沙織に小テストを手渡した。
「……え、私が教えるってこと?」
無言で頷く陽子さんに、沙織は立ち上がる。
どうやら本当にやってくれるらしい。
優しい彼女の指導はストレス無く、俺のレベルに寄り添ってくれそうだ。
「じゃあやるよ、問一。
えーと、これはつまり……ん?
あれ、うーん…………どこからやれば……。
………………………………教えるって難しいね」
沙織も一瞬にして撃沈した。
ふらふらしながら、藤垣さんの肩に手を置いた。
「え、私ですか?
一応私後輩ですよ?」
「あ、そっか……。
っていうことはもう残ってるのは……」
皆の視線は大輝の方向に集まっている。
「一応、こいつの漫画を借りる対価で勉強に付き合ったことがある。
だが、一問目を解こうとした頃には雑談を始めて最終的にはそれぞれで別の漫画を読み漁っていた。
結果、両方順位が落ちて終わったな」
そういえばそんなこともあったな。
あれは流石に先生から呼び出しを喰らってあまりの点数の低さにめちゃくちゃ怒られた。
「まあ、長い付き合いだが結局一人にして集中させるのが一番良かったよ」
「……よし、じゃあそうするか。
私たちは演劇部にでもいこう。
次は過去問とか持ってくるが、今日はとりあえず学校指定の問題集でもやっておけ。スマホは預かる」
そう言いながら、他の皆は席を立った。
……問題集と目が合う、仕方ない。
どうせ陽子さんのことだから後でチェックするのだろう。俺は黙々と問題を解き始める。
それから数分経った頃だろうか、ガラッと音がする。
もしかしたら、俺を気の毒に思った誰かが戻ってきてくれたのかもしれない。
そんな俺の予想はあっさりと裏切られた。
「え?……あの」
後ろで纏められた長い黒髪。
きっちりとした隙の無い服装に所作。
俺の向かいに、あたりまえに座った彼女は真剣な眼差しでこちらを一直線に見る。
「ちょっとだけ、私の話を聞いてくれない?」
そんな彼女の言葉に、どうやらまた何かが始まることを予感するのであった。
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