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第二十二話 織原さん

 今日は、三輪田祭二日目。

 昨日で仕事という仕事は全て終わっており、今日は楽しむだけで良いという、素晴らしい一日だ。


「日端くーん!」


 今日は特別クラスに集まる必要はない。

 だから、こうやって好きなタイミングに好きな場所に集まることが許される。

 そして俺は唯一、同じく一日中空いている織原さんと待ち合わせていた。

 ……というか、他の知り合いは皆忙しそうで俺が誘えるのが織原さんしかいなかった、というのが正解かもしれない。


「織原さん、今日はやけにテンション高いね」

「うん、だって一日中遊び回れるってことでしょ!?

 今日はお母さんたちも三輪田祭に来るから、旅館も休みにしたって言ってたし、珍しく朝から晩まで何もないの」


 そっか、伊織さんと匠さんも来てるのか。

 今日は一般開放日であるため、昨日に比べてもかなり人が増えたことを感じる。

 俺たちも早く行動しないと回りきれないかもしれない。


「それじゃ、早速行こっか」

「よーし、昨日回れなかった場所は全部回るぞ!」


 気合い十分な織原さんは、早速近くにあった焼き鳥の店に並んでいる。

 凄いキラキラした目で並ぶ彼女を見て、今日は忙しくなることを予感した。


「ふー、こんなもんかな?」

「うん……あそこで食べよっか」


 両手に袋を掲げて歩いていたが、流石にキャパオーバーを感じた俺たちはベンチに座る。

 時刻は十二時前、ご飯には悪くない時間だ。


「そういえばさ、今日の夜は花火が上がるんだよ?」

「え、そうなんだ」

「もー、去年もそうだったでしょ?忘れたの〜?」


 うん、忘れた。

 正直言って、去年の三輪田祭当日って俺はどう過ごしていたか本当に覚えていない。

 多分、普段と変わらずにクラスでスマホゲームとかしてたんじゃないだろうか。


「だったら、きちんと今年は記憶に焼き付けないとね?」


 もう俺と関わりすぎて、表情だけで覚えていないことを察したらしい。

 暗に、始めて友達に花火に誘われているのだから相変わらず気分は高揚していく。


「花火か、家の中からしか見てなかったなぁ」


 俺って、大輝がいなかったら大分大変なことになっていたかもしれない。

 雑に扱ってごめん、これからも親友でいてくれ。


 その後はとんでもなく膨れた腹を何とか消化するためにその辺の展示を歩き回った。

 ちょこちょこ友達の作品があったり、実際友達に会って色々解説してもらったりする織原さんについていくだけで展示の充実感が大きく変わる。

 そしてようやく、俺の知り合いがいる場所に来た。


「藤垣さーん、調子はどう?」

「あ、先輩方!

 聞いてください、大変だったんですよ?

 今日の十時公演すんごい人集まっちゃって、その後色々話を聞かれまくるもんだから、展示どころじゃなくて」

「へー、それって演劇についてのことでしょ?

 それだったら、藤垣ちゃん嬉しかったんじゃないの?」

「まあ、そうなんですけどね」


 それでも、ようやく展示を始められたようでたくさんの衣装が並んでいる様は壮観だ。

 衣装一つに目をつけると、その衣装にまつわる映画や原作のエピソードを無限にし続けるため、要注意。

 一通り見終わって、ほんの少しまた雑談を終えて演劇部も見終える。


「やっぱ藤垣ちゃんって面白いなぁ」

「だよね、俺も最初会った時はもっとクールなんだと思ってたよ」

「……って、そろそろ花火上がるんじゃない?」

「あ、ほんとだ後もうちょっとだ!

 やばい、もう見やすい場所取られてるんじゃないの?」

「あるでしょ、私たちのための特等席が」

「……ああ」


 バーン!

 大きな花火が上がる、とても綺麗だ。

 いつもの空き教室からでも、その姿は良く見える。

 最近花火を全く気にしてこなかった俺には、そんな陳腐な意見しか出てこない。

 それでも、本当に見惚れてしまうくらいには綺麗だ。


「凄いね……ほんと」

「うん、去年これを見逃してたなんて……」

「日端くん、こんなこと言うのあれなんだけど」


 お互い花火に視線を向けたまま、それでも織原さんの言葉に耳を傾ける。


「あの、前一回沙織って呼んでほしいって言ったでしょ?

 あれさ、もう一回お願いしても良い?」

「あー、そんなこともあったね」


 どうしても抵抗感があるのは、シンプルに恥ずかしいからだ。

 名前呼びってのは勿論そうだけど、今更呼び方を変えるということが特に。


「まあ、恥ずかしいと思ってるんだろうなって思ってさ。

 慎也……これでどう?」

「え?」


 ついつい、織原さんのことを見てしまった。

 織原さんの頬は赤くなっていて、それでも俺から目を離してくれない。


「陽子がさ、呼んでてずるいなって。

 し、慎也……ちゃんと仲良い子は名前で呼んでるでしょ?」


 大輝に陽子さん、まあ同級生は確かにそうかも。

 沙織さん、沙織……やばい何だか本当におかしくなりそうなくらい、胸がざわつく。

 やっぱり、一年生の頃からもうちょっと人に関わって免疫をつけておくべきだった。


「じゃあ………………沙織、さん」

「やだ」

「…………沙織」

「うん、やっぱりそっちのが嬉しい」


 バン!バン!

 花火はまだまだ上がり続けている。

 とんでもなく感情をかき乱されて、今は喋ることもままならない。

 それこそ、花火に夢中になっていないとおかしくなってしまいそうで。


 ああ、いつまでも終わらなければいいのに。

 そう思ってしまうほどに、今見えている俺の世界はやけに綺麗に映る。

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