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第二十話 手記

 少し前から待っていた俺たちは、藤垣さんに誘われて一番前の席に座る。

 出店で買ってきたものを食べながら、雑談を交わしているとだんだんと人が集まってきていた。

 藤垣さんは一年生の中でも美人と噂で、そんな彼女の演技を見たいと、学内では噂になっていたようだ。

 

 時刻は九時五十九分、俺は藤垣さんと目を合わせ頷く。

 とりあえず人が集まったことには安心したが、作品を面白いと思ってもらわないことには意味がない。

 俺の視線はいつの間にか秒針に釘付けになっていた。

 もうそろそろ、始まるのか。


「はい、それでは来ていただきありがとうございます!」


 藤垣さんの挨拶に拍手が巻き起こる。

 やばい、手汗が止まらない。


「それでは、始めます。

 今回見ていただくのは、手記という作品です」


 シナリオ、手記。

 始まりは、学校の教室から。


 ―おはよう

「うん、おはよう。

 昨日は忙しくてさ、すごい寝不足なんだよね〜」

 ―え、もしかして宿題?凄い量あったもんね

「そうなの、私って容量悪いから。

 ついつい動画とか見ちゃったりしてさ」


 序盤は、こんな風に延々と学校生活が続いていく。

 ここで特筆するべき点は、男側は字幕であるということだ。

 藤垣さんとの会話はとにかくリアリティがあって、まるで自分が話しているのではないかと錯覚するほどに引き込まれてしまう。

 やはり藤垣さんは演技が好きなだけある。

 素人である俺のカメラはあえて動かさずに、彼女の動きを目で追わす。

 動きのある活き活きとしたその姿に、普通の学園生活が流れ続けたとしても飽きが来ることがない。


 こうして、楽しい学園生活がつづいていたのだが、そんな時、藤垣さんはデートをしないかと提案した。

 勿論良いよ、と返す字幕。

 そのまま画面は切り替わり浜辺に来ている二人。

 一通りデートは済んだようで、最後に浜辺に来ていたのだった。


「あのさ、あの時どうして助けてくれたの?」

 ―理由か……よく分からないな。


 急によく意味のわからない会話をする二人。


「……そっか、私はね本当に愛してたよ?

 こうして、車椅子になっても誰かの助けが一生必要になっていても、愛していけるって本当に思っていた」

 ―落ち着け

「でも!私には無理だった!

 私は思ったより普通の人間で、何度も何度も嫌いになりそうで、それでも呪いみたいに別れたら私が悪になってしまいそうで!」

 ―頼む、話を聞いてくれ

「だから、行こうか一緒に」


 急に藤垣さんはカメラに向かって手を伸ばし、画面はぐちゃぐちゃに動き、最終的に海とは反対向きに落ちる。

 それに合わせて、奥からやってくる織原さん。


「なんで、こんなところに車椅子なんか。

 えっ、きゃあああああああああ!!」


 織原さんは驚きの声を上げて、勢いよく走り出す。

 その後、カメラがゆっくり動き出すと浜辺にスマホが落ちていた。

 そこには一言、


「別れよう」


 最後にエンドロールが流れる。

 主演 藤垣弥生 織原沙織

 撮影・協力 日端慎也


 パチ、パチ。

 パチパチパチパチパチパチ!!


 引き込まれていたお客さんは少し遅れて拍手を送る。

 皆各々に、感想を言い始めて強烈な作品だっただけに様々な意見が交換される。

 感触で言えば、成功だと思う。

 少し時間が経てば、お客さんはいなくなって俺たちだけになった。

 色々と話をしていた藤垣さんが、俺たちの隣に座ってくる。


「お疲れ〜、凄く良かったよ!」

「最後のシーンは、織原先輩がいなかったら完成しませんでした。本当にありがとうございます」

「そんなそんなー、最後のちょっとだけだもん。

 他のシーン知らなかったから、凄く引き込まれたよ」


 それから、俺たちの間でも映像についての話をしていたが、ようやく別の場所に行こうとなった。

 今度は、藤垣さんも連れて五人で行動する。

 とりあえず自分の仕事を終えた藤垣さんは、リラックスモードに入っているようだ。


「それじゃ、私も一旦今日の公演は終わったので後は楽しみましょうか」


 皆が歩き出す中、藤垣さんは後ろを歩く俺のところにやってきた。


「今度また、気になる映画があるんですけど。

 二人でどうですか?」


 そんな風に耳打ちだけして、前にいる先輩たちを追いかける藤垣さん。

 さらっとこんなことを出来てしまうのは彼女の演技力の賜物なのだろうか。

 少なくとも、俺のドギマギしたこの気持ちは今後演技だったとしても再現出来そうにない。

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