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第二話 アルバイト先へ

 織原旅館……バスが駅から一日二本しか出ていないという立地の悪さを加味しても、行きたいという人が多数いるという案外人気の旅館らしい。

 その秘訣は、とにかく接客やサービスの良さ。

 それに効能がすごいと言われている気持ちいいお風呂。

 旅館に求める要素は大体揃っている、そんな感じだ。

 そこで、相当前に作られたであろう昔ながらのホームページ、その一番下まで辿り着く。


 凄い勢いで変わりゆく、と言ってもほとんど森や畑なのだがとにかくその景色は何だか癒される。

 これから向かって、やらなきゃいけないことには正直胸が痛む。せめて、今だけでもゆったりしておこう。


「ねえ、見て〜」


 だが、そうも行かないらしい。

 俺がこれから大変な面接を行わなければいけない原因を作った織原さんが、肩を寄せてくる。

 見せてきたスマホには、友達と一緒に遊びに行った時の写真が写っていた。

 何だか、知らないクラスメイトのプライベートを勝手に覗いている感じがして、そっぽを向いた。


「ん、どうしたの?

 もしかして酔ってる?」


 心配したようにおでこを触ってくる織原さん。

 俺がアルバイトをすると思っているからかもしれないが気づけば、この数時間で物凄く懐かれていた。

 運転している従業員であろう女性はそんな様子をミラーで確認しているのだろうが、特に何も言わない。

 織原さんのこんな一面は旅館ではお馴染みなのかもしれない。


「あ、見てみて!

 ほら、あれが家の旅館だよ」


 そっか、もうあれから一時間くらいが経つのか。

 ようやく見えてきたその旅館は想像以上にでかい。

 降りてみて、その姿を目の前にしてみると凄いワクワク感を覚えてしまう。

 このワクワク感って、泊まりに来た時特有のものじゃなかったんだ。


「ふふーん、良い場所でしょ。

 それに接客も良くて、気持ちいい温泉もあるよ!」


 自慢げに鼻を鳴らす織原さん、だがそれらはさっきスマホの中で仕入れた情報の為、特別驚きはない。

 まだまだふふんと鼻を鳴らす彼女を置いて、とりあえず中に入ってみる。


「どう、中もいいでしょ」


 すぐに追いついてきた織原さんの言うとおり、やっぱり中も綺麗で、木のいい香りがする。

 久しぶりに旅館という場所に来た反動で少し興奮気味の俺の前に一人の女性が立つ。


「あら、おかえり沙織。

 お友達?……それとも、お客様でしょうか」


 頭を下げる彼女の所作は非常に美しい。

 華やかで目に優しい薄い緑の着物、それから沙織呼び。

 きっとこの人が、女将さんというやつだ。


「あのね、この旅館でアルバイト。

 面接したいって子を連れてきたの」


「アルバイト……そうですか。

 どうぞこちらへ、沙織は一旦部屋に戻ってなさい」


 うん、と言って織原さんはおそらく自分の部屋があるのだろう。

 俺たちとは反対側の廊下を早足で向かっていく。

 それを見送った後、歩き出した女将さんの後ろ姿を追いかける。


「うちの旅館はどうですか?」


 そう優しく微笑みかける女将さんは、確かに目元が織原さんによく似ている。

 だけど、物凄く大人びていて不思議な魅力がある。

 ハッとして、急いで質問に答えた。


「はい、何て言えばいいのか分からないけど。

 凄く良い場所だと思います、一目惚れしそうなくらい」


「ふふ、素敵な表現ですね」


 ピタッと、突然立ち止まった彼女はやっぱり美しい所作で襖を開ける。

 滑らかに開いた襖の先には、涼しそうなイメージを感じさせる開放的な部屋が広がっていた。

 旅行かなんかで泊まった場所でこの部屋を引いたら大当たりだと喜んでしまうだろう。


「それでは、少しの間お待ちください」


 女将さんは、準備があるようでどこかに行ってしまう。

 何だか、久しぶりに一人になった気がする。

 俺は、やっぱり木のいい匂いがするこの場所で大きく息を吸ってみる。

 凄く良い場所だな、やっぱりそう思った。

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