第十三話 旅館の危機
「きゃー!」
今日の夜、時刻は俺がいつも通りバイトを終えた十時頃のこと。
突然鳴り響いた悲鳴に、急いで声の方向へ向かう。
まず目に映ったのは、そこに立ちすくむだけの織原さんの姿。
織原さんの隣に並んでみると、彼女はやれやれと厨房に向かって指をさした。
厨房の方に視線をやると、土下座で座らされている匠さんとめちゃくちゃ怒っている伊織さん。
延々と説教を喰らっている匠さんは困ったように頭を掻く。
「いや、やっぱり昔からよくしてくださってる方だったからさ〜」
「だから尚更です!これで来ていただけなくなったらどうするっていうの!」
匠さんは結局、自分が悪いと納得したのかしゅんとしながら延々と続く説教を受け続けるようになった。
「これって何があったの?」
やっぱり気になってしまう俺は、織原さんにこそっと話を聞いてみる。
「うん、お父さんが団体のお客さんを入れたの。
そしたらその前にも団体のお客さんが入ってて、部屋数は足りてるんだけど、どうしてもサービスが行き通らないんだってさ」
「それって何人?」
「二つの団体合わせて、十四部屋の十八人。
まあ……中々ハードだよね」
なるほど、確かにきつい。
総出七人で対応したとしても、どこかでボロが出る可能性は非常に高い。
長期休みに向けて、短期でもバイトを雇おうとしていたタイミングでのこれだった。
まあ、秋のこの時期に団体客が重なることは珍しいだろうし、予測するのも不可能なのだろう。
俺の姿を見た、伊織さんが一気に詰め寄ってくる。
「慎也くん、休日お休みってことにしておいて悪いんだけど、出てもらわないと行けなくなっちゃったの。
本当、お願いします!!」
うわあ、いつもの冷静な伊織さんはみる影もない。
こんな声も出せるんだ。
「それは良いですけど、俺一人入ったところで何とかなるもんなんですか?」
「分からない、でもいないと始まらない。
……だから、今は人数の多いお客様に関しては私に話を通してって言ったでしょ!」
あー、また説教が始まってしまった。
ずっとここにいても仕方ないから、俺たちもその場を離れることにする。
「はぁ、来週の土日は大変なことになりそうだなぁ」
「本当だね、私たちなんて学校祭もあるしね」
「うわ、そうだよ」
忘れていた……というか忘れたかった。
クラスの準備に忙しくなるバイト、それから演劇部の手伝いもあった。
どうして、こういう予定というのは被ってしまうのだろうか。
「まあ、今週の土日は帰るんでしょ?」
「うん、明日の朝ごはん食べたら由麻さんに送ってもらう」
「私は土曜も働き詰めだよ〜」
とはいえ、俺もそういえば藤垣さんとの用事があるんだったな。
「なんか、達成報酬でもあったら頑張れるんだけどね」
ついついこんなことを口走ってしまった。
実際、ゲームをやるのは勉強が終わってからテスト期間を乗り越えたら本を買っても良い、みたいなことはよくやっていた。
守れたことはほぼない気がする。
「じゃあさ、空き教室でご飯食べてる皆で遊びにでも行こうよ。これが全部終わったら」
「あー、良いかも。
なんかゆっくり出来るところが良いな、温泉とか」
「ここにも温泉あるんだけどね〜」
まあとにかく、ああやって昼ごはんを食べている時間は確かに俺にとっても幸福な時間だ。
その皆で、遊びに行ってみるというのも楽しそう。
とりあえず誘ってみてどうか、というところではあるが一つやる気を入れる材料を見つけた感じがして、少しだけ肩の荷が降りた。
「じゃあ、またね日端君」
「うん、それじゃおやすみ」
ようやく部屋に戻ってきた俺は布団に入り込んで英気を養う。
まずは、学校祭準備から頑張っていこう。
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