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Lv.5

 

 この世界には『技』と『魔法』があり、同時に『闘気』と『魔力』が存在する。

 そして『技』を放つには『闘気』が必要であり、『魔法』を放つには『魔力』が必要とされる。


 この『闘気』と『魔力』はどちらもレベルとともに上昇するものだが、『技』と『魔法』は勉学で覚え、体で身に着けることでしか会得することができない。


 俺は冒険者に必須とされている基本的な魔法と『南雲流(なぐもりゅう)』と呼ばれる技を会得している。魔法は構築する理論と、それを創り上げる精度さえ練り上げればいつでも覚えられるが、技はそうはいかない。


 俺の会得している『南雲流』は100以上のありとあらゆる技が連なった伝説の流派だが、今の俺は"剣"に関する技しか使えていない。


 せっかく100以上の技があるというのに、俺が剣を得意としているばかりに今まで他の技に手をつけていなかった。


 なので今回は、その剣を捨てようと思う。

 そう──真の強者とは"素手"で全てを一蹴する者のことを指す。南雲流を作った南雲先生も多分そう言ってる、知らんけど。


「ということで本日やってきましたのはこちら『玖蛇(くじゃ)の砂漠』!! 10匹いるとされる伝説の"十神(とうしん)"の一匹──玖蛇(くじゃ)のいる砂漠でございます!」


 俺はテンション高めに実況しながら、目の前に広がる灼熱の大地を眺めていた。


 そこは草木一本すら生えない地獄の地、数多の魔物が蟲毒化によって極限状態となっている危険地帯。

 そして何より『玖蛇(くじゃ)の砂漠』と呼ばれる由来は、世界に1匹しかいないといわれる魔物"十神"の一匹、玖蛇がいるといわれているからである。


 ただ珍しいだけであればピンクラビットのような位置づけなのだが、"十神"はバケモノ級に強い。何せ世界に一匹しかいないのに未だ倒されていないのだから、相当ヤバい魔物である。


 そのあまりの強さから"神の使いなのではないか?"という噂がたって"十神"と呼ばれるようになった。


 今回はその"十神"の一匹、玖蛇に挑もうと思っている。

 もちろん勝てるなんて思っていない。俺のレベルは91とベテラン級にはなったものの、それでもまだ91だ。このレベルならまだ世の中に巨万といる。


 だから今回は玖蛇に挑みつつ技の練度を上げるのが狙いだ。

 雑魚相手に慣れない技を放っていると型ばかりが成長して、いざ格上と戦う際にテンプレートな攻撃スタイルになりやすい。


 技とは攻守全てを為すもの。放った技を完璧に命中させるのはもちろん、そこに至る前での体制の構築、技を放った後の隙の削減、そして放つ技の威力向上は必要不可欠だ。これらは戦闘において命を左右するほどの絶対性がある。


 なので、今回の目的は技の練度を上げること。技術の神髄を会得することに注力しよう。


 と、初めは思っていたのだが──。


「ヒャッハーー!! 魚の魔物風情が、俺から逃げられると思うなよ! いや、むしろ俺が魚だ!!」


 などと訳の分からない口上を述べて魚型の魔物を殲滅しまくる俺。


 砂漠に入ってから6時間。俺は玖蛇のことなど忘れて、砂漠の中をピョンピョンと飛び回る魚型の魔物を乱獲していた。


 いやだってしょうがないじゃん、玖蛇いないんだもん、どこ探してもいないんだもん。途中で呼んだよ? 玖蛇さんいますかー? って、でも返事ないし、多分どこかに出かけてるんだと思う。


「砂漠の海で泳ぐの面白れぇ! ズボボボボ……オラァ! 大漁ッ!!」


 地面に潜っては地中にいる魚型の魔物を炙り出し、地上へ飛び出た瞬間に空中で拳を叩きつける。

 技の修行とは一体何だったのか、ただただ素手で魔物をぶん殴ってるだけの変態逆リンチである。


【フール・ワン=レクト】


 Lv.91→Lv.94


 そんなこんなで気づけば半日が経過し、俺のレベルはいつの間にか94まで上がっていた。

 1日で3も上がるなんて異常である、よほどの変態でもなければ1ヵ月で1上がればいい方だ。


 なのに俺のレベルは3つも上昇していた。


 ピンクラビットと強欲竜(グリードドラゴン)で麻痺してたが、こんなスピードでレベルが上がることなんて普通はありえない。


「まさか……」


 そう思ってふと魚型の魔物を鑑定スキルで覗く。


【ハイクラス・ボーンフィッシュ】


 Lv.130


「……え、レベル130……?」


 愕然とした表情で目の前でぴちぴち跳ねてる魚型の魔物を見つめる。

 段々と顔が青ざめていき、俺は足を後退させた。


 いや、まってくれ。これやらかした? 俺もしかして盛大にやらかした? これ相当ヤバいんじゃ──。


 その一瞬の隙を突いてか、魚型の魔物は勢いよく飛び跳ねると、俺の体へと体当たりした。

 刹那、信じられないような衝撃を受ける。


「ぐふぉあ"ッ"ッ──!!?」


 俺の体は一瞬でコの字に折れ曲がり、遠方も遠方、砂漠の入口まで勢いよくぶっ飛ばされた。

 そのまま砂の上に倒れ込み、俺は体を震わせながら起き上がった。


「な、なんで今まで気づかなかったんだ……。ここの魔物、バチクソ強いじゃねぇか。いや、今まで魔物の攻撃受けてなかったわ……ぐふっ」


 不幸中の幸いか、俺は今まであの魔物を追いかけまわして倒していたせいでずっと無双状態だった。

 つまり、今の今まで一回も攻撃を喰らっていなかったのである。


「レベル130って……レベル差40もあるじゃねぇか。レベル80の強欲竜(グリードドラゴン)に挑んでいた時のレベル40の頃の俺と一緒じゃねぇか……ぐふっ」


 俺は自分の愚かさに頭を抱えながら再び倒れた。

 レベル上げに夢中で、相手が雑魚だからとレベルの確認をすることを怠っていたのだ。


 玖蛇ばかり意識していたせいで忘れていた。ここは『玖蛇の砂漠』、蟲毒化を経て極限状態となった魔物達が跋扈する砂漠だ。簡単なわけがなかった。


「これは失策だな。レベル40差は無理だ、出直そう」


 俺はそう呟くと、踵を返してその場を後にしようとした。


「──と見せかけて魚狩りじゃああああ!!」


 フール秘奥義、刹那の心変わりである。

 俺は勢いよく振り返って砂漠の方へと走りだす。


「一日でレベルが3も上がったんだぞ! こんな美味い狩り場見逃せるかぁッ!!」


 まるでギャンブル中毒者のような発言をかまして砂漠の海へと飛び込む。

 そんな俺の気迫が効いたのか、さきほど体当たりしてきた魚型の魔物も驚いて逃げ始める。


「レベルが高くても雑魚は雑魚なんだよ! 雑な魚だから雑魚、はっはー! 俺天才ーー!!」


 幼稚な発言でアドレナリンを過剰分泌させて自分を鼓舞する。

 そして勢いよく飛び跳ねると、魚型の魔物に向けて拳の嵐を放ちまくった。


「俺は魚の骨までたいらげる派だーーッ!!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] これは素敵な狩場ですわ! ところでハイクラス・ボーンフィッシュったグリードドラゴンより強いんですか!?
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