Lv.2
ブラックの情報を聞いた翌日、俺は『ラティス鉱山』と呼ばれるところに出向いていた。
この鉱山は物凄く強いドラゴンが住処にしており、そのせいで発掘隊が出向けず、物凄く強いドラゴンには懸賞金すらかかっているらしい。
そしてこの鉱山の中枢にはかなりの金銀財宝が眠っており、その額は数千万にも上るとのこと。
それは俺が出した1200万が帳消しになるほどのものだ。
だがブラックの出した情報の本質はそこではなかった。
俺が聞いたその情報がもし本物であれば、俺は今日、人生大逆転の日が訪れるということである。
だが仮にそれができなかった場合、俺は今日死ぬということでもある。
何故なら、俺は今その物凄く強いドラゴンに襲われてしまっているからだ。
「グォオオオオオオッ!!!」
「ぐああああああっ!!」
俺の目の前には巨大なドラゴンが咆哮を轟かせ火を噴いていた。
そして俺はもう瀕死の状態である。
「はぁ、はぁ……はははっ! 死ぬ! 死ぬぞ俺!」
アドレナリンが過剰分泌されて一種の興奮状態になっている。
俺に与えられた運命の時間は3日間、その3日間の間にドラゴンを避けつつ『とある魔物』を狩るのが目的だった。
だが不運なことに、なんと1日目でドラゴンに襲われてしまったのである。
今日で3日目。俺は3日間ずっと、この物凄く強いドラゴンと追いかけっこをしていた。
「グォオオオオオオッ!!!」
グォオオオ!じゃねぇ、こっちは死にかけなんだよ、体に響く咆哮するのやめてくれ。
大体なんだよドラゴンって、鑑定スキル使って見たらレベル80越えてるじゃねぇか。俺42だぞ、倍はあるじゃねぇか。てかなんで俺はこんなバケモノが住んでるところに単独で向かったんだよ、せめてパーティ組むべきだろ。
寝ずに戦っていたせいで思考力が低下しているせいもあってか、この時の俺は行動に一貫性がなくなってきていた。
しかしそんなことを考えている暇など無い。目の前には巨大なドラゴンが俺を食さんとばかりに大きな口を開けている。
少しだけなら逃げれる体力は残っているが、追いかけてこられたら元も子もない。
そしてコイツは間違いなく追いかけてくる。目がヤバい、俺と同じくらい目がキマッてる。その気は無かったが、自分の宝を強奪しようとした俺に怒り心頭だ。
「何かないのか、何か……!」
焦燥した表情で辺りを見回すと、一匹の魔物がドラゴンの尻尾の辺りをウロチョロとしているのを見つけた。
「……ッ!!?」
それを見た俺は一瞬で目を輝かせ、勝利への方程式を完全に作り上げた。
「見つけたァーーッッ!!」
「グオオオオォオオオ!!」
「どけェ──ッッ!!!」
最期の力を振り絞ってドラゴンの噛みつきを回避。そのままドラゴンの股の間をすさまじい速度で駆け抜けた俺は、尻尾でウロチョロしているピンク色の魔物に向かって突貫する。
ブラックの言っていた通りだった──。
『明日から3日間、ラティス鉱山にピンクラビットが出現する』
『なっ、ピンクラビットが!?』
『詳しい時間帯は分からないが、3日間のうちに必ず顔を出す。その間にドラゴンに食われればおしまいだが、先にピンクラビットを倒せればその時点でお前の勝利が確定する』
『──それは、本当だな?』
『ああ、情報料1200万の対価だ。信憑性は保証する』
激レア魔物『ピンクラビット』。通常の魔物の100倍近い経験値を持っている、まさに冒険者が黄色い悲鳴を上げる恋のウサギだ。
しかもピンクラビットは周囲の魔物達の経験値を溜め込む性質があるらしく、より強力な魔物がいる場所で見つけると、より大きな経験値を得られるらしい。
俺が今相対しているのはレベル80越えの巨大なドラゴン、その尻尾をウロチョロしているピンクラビット。
完全にヤバい量の経験値を持っているのは一目で分かった。
「『突風爆裂』、『衝撃波』ッ!!」
攻撃系の風魔法を自分にあてながら加速し、風圧で目がつぶれる速さで俺はピンクラビットに向けて刃を向ける。
「頼む、当たってくれ──ッッ!!」
「ピキュ!?」
一瞬にして音速を超えた俺は、ピンクラビットに向けて剣を振り下ろす。
次の瞬間、轟音と共に目を伏せるほどの土煙が巻き起こった。
「グォオオオオ──」
標的を見失って辺りを見渡すドラゴン。
舞い上がった土煙からは殺気がなく、人の気配が感じられない。
ドラゴンは僅かな一瞥を向けた後、天空へと顔を上げた。
「──」
眩い光とともに降ってくる人影。
逆光を浴びて連なる一閃の輝き。
ドラゴンの瞳には、気の狂った青年の顔が焼き付いていた。
「ああああああああっ!! ウ・サ・ギ狩れたぁぁあああっ!! 脳汁パネェええええええ!? ドーパミンで頭イカレるってマジで! うぉああああああッッ!!」
【フール・ワン=レクト】
Lv.42→Lv.85