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「ごめんね。私の力が中途半端なばかりに」


「違うよ。サツキ。これは私が自ら望んだことだから」


 あの時はお互い時間がせまっていて話せなかった。

 求められるまま力を与えて、その結果の今がある


「教えてほしいの。どうして、アズサは魔法少女を続けたかったのか」


「……そっか、あの時とは逆の立場なんだ」


 住民の暮らしを見る一角で、その少女の手元には何もない。直立のまま自身を見下ろす動きの後には、向き合ったはずの視線が伏せられる。


「あんな姿を見せた後だと、取りつくろう意味もないんだろうね」


 そう少女はつぶやきを返した。



分かっていたつもりだった。


いつか力が失われることも。任務の中で死ぬことだって、覚悟していたつもりだった。あの人のことだって、そういう事例があることも、


だけど、魔法少女なんだよ。


知っている。

表に出ない魔法少女がいることも、力に恵まれた私が今以上を望むことが、どれほど失礼なことなのかも。


それでも、あんなことで終わらせていいものなの?

有望な力を周囲に期待されて、支援に対する貢献を誓った。顔も知らない誰かのために死ぬ危険のある戦地に向かう。そのための決意をあれほど簡単に、


それ以上に、私は私自身を認められない。

怪獣と戦うために与えられた力を途中で捨てた。力が衰えたわけでもなく、戦いの中で潰えたわけでもない自分を。



 それこそが私と異なる点だろう。

 やはり彼女は根っからの魔法少女で、結局私は私が望んだ魔法少女になりえない。


 だから、この場で告げてしまえる。

 立ち尽くすことになった眼前の少女に。


「でも、社会を知った。状況が変わらないことも」


 それが唯一自分ができることだから。


「ねえ、アズサ。……次はちゃんと諦められる?」


「この力は私のものじゃない。次の一瞬に失われるとしても、きっと私は私を諦められる」


「そう」


 握るキーホルダーを手放し、一本の杖を両手に出現させる。


 私の能力は、怪獣に壊される人々の生活を守れるものではない。現役の魔法少女を助けることも難しければ、きっと、眼前の少女くらいにしか意味がない。


 静かに横切り、少女の背後に回り込む。


「ありがとう、アズサ




……でも、少し嫉妬しちゃうな。







 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――




 早まる足をいさめて危険地帯の外へ向かう。

 手にある端末から通話を試すと、都合をたずねた後には少しの間がありながらも相手は了承を返した。


「直後に連絡できず、すみません」


「予想はしていましたが、もう連絡は来ないかと思いました」


「まさか。先生には、もう少しお世話になりますからね」


 見上げるばかりだった景色も、今は落ち着いて見ていられる。

 しばらく忘れていた目線の高さは、直前との変化を伝えてきた。


「常村二佐の方には先に伝えておきましたが、彼女の様子はどうですか?」


「今は移動中ですが、車両の方で問題は起きていないそうです」


「これからも続けていけますかね?」


「できるかぎりの保護はしますよ」


「それなら良かったです」


 別れる時点では復帰もできそうな姿だった。

 あの後、彼女が怪獣退治に向かったのは想像に難くない。少なくとも今、会話する中で問題を知らされない以上、事が順調に進んだと考えられる。

 もちろん、部外秘という可能性もあるが、行動の結果を伝えるくらいは現場判断だろう。


「むしろ、イツキさんの方こそ、大丈夫なんですか?」


「現状困っていると言えなくないですけど、こればかりは自己責任ですし、何より納得の上でしたからね」


 霧の影響が収まる頃には現場を抜け出せるはずだが、今の体で兵士から見つからずに包囲を抜けるのは難しい。たとえ発見されたところで逃げ遅れた住民として素直に誘導を受けるだけだが。


「何にしても、上手く送り出せただけで十分ですよ」


「正体は最後まで明かさなかったんですか?」


「そのために活動を続けていたわけでもありませんし、幻滅されたくなかったのも本音です」


 正体を明かす覚悟は自分になかった。


 美談に仕立てたかった部分もあるが、知った事実を受け入れられるかに限らず、そのことで変に彼らの手を煩わせるのも本望ではない。

 特に、今の自分との接点を断つことは自身とっても重要なことだ。彼らからの非難を浴びる覚悟はある。


「出会ってから先生にはお世話になるばかりだったので、こんな結果になって悪い気がしますね」


「本当ですよ。イツキさんが現れてから予想外の連続で事務手続きだけでも大変でした。お礼をしてもらえるなら、しっかり受け取ってしまうところです」


「そうですね。余裕ができた頃に何かしら送らせていただきますよ」


「お心遣い感謝します」


 次の機会への言葉まで告げて通話を終える。


 いくらか土汚れの増えたキーホルダーをポケットに隠した後には、安全な大通りへの道筋をたどった。




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