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 自由時間も多く、ともすれば、余暇の使い方に悩むのも魔法少女の常だろう。


 研究用に迎え入れられたとはいえ、一日中監視があるわけではない。

 もっとも正確に言うなら就寝中も体調が簡単に記録されているようだが、研究者が付ききりになる程ではないという話である。


 この施設では施設整備も業者に一任しており、社会参入のために魔法少女が働かせることはない。怪獣対策の魔法少女は当然所属しているが、それ以外では研究用に集められた者ばかりだ。


 この施設では病室を離れられない者のためにも、個人用の娯楽は充実している。

 図書の蔵書も多く、貸出申請を個人端末で行えば、研究員が訪問の際に運んできてくれるらしい。通信販売の利用も認められる。限度はあるにしても個人が金銭的な面で困ることはありえない。


 実際に各施設に訪れたことがないため、あくまで伝聞の話である。


 とにかく、魔法少女は怪獣退治を優先させるために、候補生には早期就学が許された。

 卒業と選抜をもって魔法少女に変わるものの、得た能力が必ず本業に適するわけではなく、元候補生を含めた一部は、通常の就学課程と比べて数年の空白期間が生まれてしまう。この難しい経歴に関しては個人単位で自助するしかなく、人によっては資格取得に専念する場合もあるそうだ。


 この年になりながら、そんな面々に加わえられたことに場違いを感じる。そんな言い訳によって、空き時間は定期購読する電子雑誌を読みあさる有様となっていた。


 軍を半端に除隊すると知っていれば、前もって技能資格を一般向けに更新できた。実働部隊の末端なので商売としての技能なんて不要だったが、今では救命技能くらいが一般寄りのもので、それすら期限付きの箔付けである。


 決まった時間に研究員が訪れて、体調検査が行われる。

 そんな日常である。


「魔法少女になったあの人は、どう過していますか?」


「彼女か。今は変身状態を長く保つ訓練している段階だ」


 毎回ではないが、今城博士も顔を見せる。

 施設長であれば多忙なはずだが、研究が第一のようだ。一般人を魔法少女に変えるという現象に対して、興味を示しているのは本人も自認している。

 こちらの所属を無理やり移したことに負い目を感じている部分もあるのかもしれない。実験協力のためにも演技くらいはするだろう。


 そんな事態でも、飾った家具などない病室じみた個室では、どこにでもあるような客用の椅子が用いられる。

 自分も、さすがにベッドに寝ころぶ姿は見せたくない。話し相手と机を囲んで、同じ形のこじんまりした椅子に着く。


「彼女の力が消えるといったことは?」


「前兆は見られない。検査結果にしても正常な数値内だ。極端な変化がなければ、まず一年は確実に保つだろうね」


 こちらの能力によって魔法少女にされた女性は、現在でも検査段階にあるらしい。

 固有の能力を持たない点を除けば、およそ正規の魔法少女と変わりない。あとは持続時間の確認と、固有の能力を持たないという事実の検証らしい。


 厳密に調べるために大量の被検体を用意する計画は、現段階では考慮しないらしい。実際、戦えない魔法少女を増やしても経費の負担になるだけだ。

 どのみち実験対象の女性は、その数年の期間全てを実験に捧げられることになる。


「それよりも気にすべきは君自身だ。この能力は使用回数に限界があるのだろう?」


「はい。前の施設でも注意されました」


 問題は被験対象だけではない。


 自分自身にも変化はある。

 怪獣の攻撃で負傷した場合や魔法少女であることに起因する、一部の検査数値の異常。かつて定期的に変身して数値を保ってしまったことで、魔法少女である確信を与えてしまったように、魔法少女の力の有無を判断する手段である。


 その数値は、自分の場合、能力を使う度に着実に低下する。

 よく言えば一般人に近づく。年数経過によって減少するのは皆同様で、元々の数値差もあり変身できなくなるまでには個人差が大きい。変身の失敗が増えたり、ある時から変身できなくなる。どちらになるかは、現在の技術では減少傾向の直前になってみないと分からないそうだ。


 具体的な使用回数は示せないまでも、定説にならうなら、いずれ変身できなくなることは確定している。


 と言いつつも、魔法少女を辞めたくなった時には能力を連発するだけ良いのだから、能力の中では恵まれた方なのだろう。


「乱用をさけて、必要な時に使用する。研究のためなら拒みません」


「経過観察は丁寧に行うつもりだが、それで構わないのかね?」


「はい。能力の使用に関しては契約書に書いたとおりです。それに有益な結果が出た場合には、多少の見返りもあるみたいなので、……この場合、報酬も付きますよね?」


 報酬という言葉に、博士は強く同意を示す。


「もちろん。成果次第では上限一杯まで考慮する。そうでなくても、実験協力者は希少だ。さすがに高級品となると自己負担だが、生活全般に収まる分は、自由に要求してくれていい」


 生活に関して不安はない。


 博士が言ってくれている面もあるが、数日後には手荷物に含まれなかった分の私物も送られてくる。連絡は禁止されていないため、最低限必要な物品は配送を頼んだ。

 病室然とした自室にも多少は個性が足されるだろう。


 どちらかといえば、前の施設に迷惑をかけている方が気になる。派遣に方針を定めてから想定されていたとはいえ、急な対応で苦労させてしまった。

 恩返しの方法など限られているが、この派遣中に自分の能力が研究されて、力の実態や安全性を確かめた上で、戻ってきた時に活用できるのが一番良い。


 全ては能力次第という、どうにもならない面は自覚しているが、局長で忙しいはずの今城博士がこの数日間で何度も顔を見せるように、決して期待値は低くなかった。




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