表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/36

019




「先輩、前線基地では、どんな生活でしたか?」


 目の前の少女が前線帰りと知った時から、質問の機会を探していた。

 夕食前の自由時間に私室で試験対策を進める。その手助けのためにと一対一で小机の向かい側に座ってくれたアズサに話題を出す。


「そっか。サツキには、まだ話してなかった。楽しい話はできないけど聞いてくれますか?」


 皆の中では既に過ぎた話題だろう。おそらく、アズサ自身も施設にきて何度も話してきた。それでも力を持たない自分が魔法少女になった当初は夢見た場所だ。前線で戦う魔法少女たちの実状を知りたい。周囲を気にせず聞けるのは今しかない。


「私は討伐実績が少ない。もちろん着任期間が短い分もあるけど、それでも同期と比べて出撃は少なかった。だから、これから話す内容も、実態と離れているかもしれません」


 初めの言葉で疑問が湧き、続く説明で納得する。

 話を止めないためにも頷いた後には口を閉じた。


「市街と違って日常的に怪獣と遭遇する。前線基地って危険な場所だと思いますよね……」


 あずさの話は、自分が想像したものとは違う。

 軍人だった頃にも教わらずにいた実態があった。


「でも違う。ずっと遠い。前線基地にいて怪獣の足音に怯えることはない。侵入を防ぐための巨壁だって、実際はまばらに作られているだけ。巨大な怪獣の突進を受け止められるような強固な造りでもない」


 怪獣が出現する以前から変わらず、国境を保つという一点のために、あらゆる技術がつぎ込まれる場。外敵への警戒を常に続けて、必要なら排除も行う。

 それがどういう環境になるのか。


「だって、余裕のない生活なら長く続かない。一度も失敗が許されないような状況を数十年も維持できるわけがないの」


 アズサは語る。


「みんな、すごかった。同じ隊の仲間も、それを支援してくれる兵士の人たちも。名前も知らない誰かが自分を後押ししてくれているのを強く感じた」


 視線はこちらを遠のき、力の抜いた身体を縮めている。


「たしかに強い怪獣を撃破するには魔法少女の力が欠かせない。単純な威力があっても、傷つけたところで活動状態まで再生されてしまう。けれど、止めを刺す以外は魔法少女でなくても構わない。この基地の担当地域でも、怪獣の出現予測がされたり事前避難が行われるけど、前線はそれ以上に恵まれていた」


 この施設に移って半年を過ぎない時期だろう。以前を振り返るのも難しくないと同時に、比較できるくらいには今の環境も経験している。


「要請が届いて会議を済ませる。出撃になって荒地を進んでいると、乗り込んだ車両から遠い砲撃を知る。振動が通り過ぎて発射を聞く。狙いを定める初弾の後には砲台から続々と弾丸が放たれて、まだ見えない怪獣が砲撃される。空からの爆撃も止む頃には現場に付いて、展開を終えた軍の部隊が、私たちが討伐に専念できるよう戦域の確保まで行ってくれていた」


 語られた内容も、聞けば納得できるものだ。

 自分は魔法少女への羨望が強いために認識がずれてしまうが、怪獣への対処は魔法少女だけの功績ではない。

 防衛機密にあたるため担当外の兵士が正確な情報を得る手段はないが。知るかぎりの兵器を並べて怪獣へ対処しろと命じられた際には、語られたような現場が理想になるだろう。


「たしかに、怪獣自体の脅威は市街と比べて厳しい。出現数の多さもあって等級の高い怪獣も確認される。統計で示される死傷数も、練度に対して過酷としか言えない状況にある。……けれど、魔法少女の役割は難しくなかった」


 アズサは戦闘能力に優れている。実際の戦闘場面を見たことは一度だが、相手は死傷者が多いという前線を生存してきている。


 普通の者は、その視点まで届かない。

 魔法少女の力にも優劣がある。戦闘に向かない能力があるように普通の者は怪獣退治に苦労する。目の前の戦闘を意識するばかりで周囲に目を向けられる者は少ないだろう。


「国境周辺の怪獣は、出現時から識別番号が紐付けされて、徹底的に管理される。国境外にいる何百もの怪獣から、危険な個体だけが選ばれて排除や進路誘導が行われる。現実に防壁まで近づけるのは現場の警備兵で片付くような等級に当てはまらない個体だけ。もちろん突然出現するような場合はあるけど、普段は、滞在する基地から目視できないほどの距離が保たれている」


 幼い頃から活動する魔法少女も、前線に移る頃には新兵と並ぶ年齢になる。

 あずさと自分の年齢差も社会全体で見るとわずかな差だが、おそらく自分が同じ経験をすることはなく、言葉で理解できても実感はありえない。貴重な話だ。


「……えっと、総括すると、ここの仕事も前線と変わらず難しいよ?」


「急に軽くなりましたね」


「慣れていない内は、昔が良かったなんて言ってしまいそうで」


 細々とした内容を自覚したのか、端的な表現に変わる。

 同様に、幾分か姿勢と表情がやわらぐ。


「前線の方は攻撃面の支援が手厚くて、力の制限も実質無いようなものでした。市街地だと周囲を気にする必要もあって、難しい戦いを強いられていると思います」

 

 次に出た感想は、どの魔法少女も一度は思い抱くものだ。


 魔法少女は最良の結果を出せない。

 大抵の場合、怪獣が出現した段階で、市街に被害が出ている。怪獣の質量に対して、建物の強度は頼りない。体当たり以上の攻撃を持つ個体なら広範囲が壊れることも珍しくないのだ。

 兵器等の消耗と違った受動的な損失は、被害者に悪感情が生まれるのは避けられない。


「戦闘に関しては、こんな感じです。大きな要請は月に一度あるかという間隔で、基本は部隊の判断で目標数に届く程度に個体数を減らします。全ての怪獣に対処するわけではなく、時には怪獣同士がぶつかり合うよう誘導する。作業時間の短縮が求められていますけど現場は忙しいですね」


 怪獣といっても形は様々あり、至近距離に寄るだけで傷付きあうというのも考えられる。積極的に攻撃するかは疑問だが、そもそも相手の目的も不明で、出現した地点を荒らしまわるというのが、現状の認識だ。

 怪獣同士で意思疎通しているかも不明なところだ。


 明確な個体分けができても、生物としての生殖の話は聞かない。

 少しくらい解明できてもいいところだが、火や電気なんかに比べれば半世紀の付き合いは短いものかもしれない。

 一応、研究用の飼育はできているだったか。


「日課となると、後は資源回収くらい。向こうは毎日のように砲弾を消費して、遠い地点でも結構な量の金属片が溜まります。回収は再利用のためですね。怪獣駆除の時と違って、今度は自分たちが作業空間の確保を行って、兵士の方を手伝います。重機で掘り起こされた資源は、これまた重機で分別される。積み込む貨物車も空荷になることはありませんね」


 資源回収は、行きと帰りで移動時間が倍も違うと後付けされた。

 怪獣の巨体を叩き潰すには、爆薬だけではなく相当量の質量弾が必要になる。それが日常的に求められるのだから回収も必須になってくる。怪獣の撲滅に魔法少女が必須でなければ民間に頼りたい業務だろう。


「……ここ数年で対怪獣用装備の需要も高まって、怪獣を最低限の損傷で捕獲するなんて任務もあります」


「もしかして、怪獣を素材としているんですか?」


「私も知った時には驚きました。ただ素材となる怪獣は一部で、特定の性質を持つ個体の探索から始まって、追跡捕獲までを行う。攻撃部位が制限されたり解体要求もあって、回収任務に対する好みは大きく分かれますね」


 対怪獣用装備は、自分が一度求めた軍事物資だ。

 魔法少女でなくても怪獣に致命傷を与えられる。現在は軽火器しか運用されてないとの噂だが、将来には魔法少女と同等かそれ以上の働きが可能になるかもしれない。


 怪獣を倒す武器を作るために怪獣を倒す。

 遠回りに聞こえるが、魔法少女の人材が限られる現状では需要が高い。未だ制度の整わない魔法少女に代わって一定の戦力を分散配備できるというのは、出現範囲におよそ制限のない怪獣への有効策だ。先払いして戦力を蓄えられるという点も、緊急時の備えとして響いてくる。


「分隊規模で揃えた場合でも、保管設備を含めた費用は、最新の戦闘機一機分に相当するみたいです。そのわりに使用期限も短いみたいで、破損を聞いた前線基地の経理部門の人なんかが泣き叫んでいました」


 一般の兵士にまで回ってこない時点で可能性はあったが、検査で戦闘能力が低いと判明した際に、これを頼み込んだ自分は常識知らずだ。話を知った主任が改めて断りを入れてきたのも無理もない。


 咳き込む自分を心配して、あずさが声をかけてくる。

 要求を言っただけの自分は何も問題ない。静かに施設で暮らしてもらうほうが安心してもらえるのは確実だろう。


「……ちなみに、先輩は、回収作業に対して好き嫌いはありましたか?」


「鮮度維持に関わる部位を抜き出すのに、腕から肩までベタベタになるのがどうにも嫌で、……もちろん仕事は毎回こなしましたよ」


 長話になって、姿勢を改めるアズサに自分も続く。


「仕事はこれくらいです。勤務外の時間はかなり自由でした。もちろん基地を離れるとなると少ない日数になりますが、メンターを同伴させる義務もなくなるので、体調くらいの定期報告を行いさえすれば、一般の兵士と同等、それ以上に自由です。……とは言いつつ民間のお店に行くとなると長時間車両に運ばれるしかないんですけど」


「向こうの基地は規制地域の中でしたね」


「はい。おかげで見晴らしは良くて、軍用車が通るだけあって道の舗装も万全で、移動の間の乗り心地は悪くありませんでした」


 年齢を重ねて社会的な判断能力が身につく頃には自由も許されるか。

 存在の希少性や有用性から優遇されているものの、好んでなりたい存在か問われると微妙なところだ。好印象を与える宣伝や一律の適性検査で煽っているものの、戦闘に向かない力を得た場合には、その力が失われるまで行動制限が待っている。


 それでも、似たような待遇になる業種は他にもある。

 危険視されて殺処分されるようなことがなければ悪い話でもなく、戦えない魔法少女は総じて稼ぎが低くなるといった現状の問題も少しづつ改善されようとしている。


「どこで暮らしても、魔法少女は難しいですね」


「戦えない自分が申し訳ないです」


「それは良いの。誰かが無理して戦うほど状況は悪くないから」


 現在、魔法少女が求められているのは怪獣退治の現場だけだ。

 そこで貢献できない以上、施設が保護を進めても個人は安心はできない。


 その前提も研究次第で変わろうとしている今、多方面への活躍に向けた人材育成も課題になっている。自分の価値が、男ながら魔法少女という特異性であるなら、研究材料として身を置くことが重要になる。


 残念ながら自分は戦闘に足る能力が無い。

 今日まで変身を続けて、魔法少女の身体にも慣れてきた。検査に限らず、見込みがないと自覚できる。今あるもので貢献するしかないのだ。


「怪獣を倒したところで、何かを守った実感なんて湧かない。働いた分の対価を報酬として受け取るだけ。だから、身近で伝えてくれる誰かがいてくれるだけで違うと思う」


「そこまで言われると頼るばかりになってしまいそうで、……怖いです」


「私がこの施設にいられる間は、いくらでも頼ってくれていい。向こうでは一番幼くて甘やかされるばかりだったから。お姉さんらしい行動には憧れていました」


 兵士さえ辞めてしまった自分にできることがあるなら。

 守られる対象として平時を一緒に過ごす。それが現役の魔法少女の環境向上になるなら、喜んで請け負う。


「先輩の願いを叶えるためにも、しっかり学んで所属を認めてもらわないといけませんね」


 声援を聞いた後には、目の前の教材へと視線を戻した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ