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013




「これで検査終了です」


 腕輪型の装置が取り外されて、全ての検査が終わる。

 少女は標的に何度か攻撃した後は、職員が集まる部屋に戻り、検査装置の安全動作のために椅子に座るばかりだった。


 三人いる職員は役割が分かれており、一人が説明を行う裏では、検査機材の準備や行程を相談する姿を見せていた。


 そうして結果の集計が終わったとの報告を横聞きすると、正面の職員も近くの端末板を手に取った。


「怪獣退治に加われると思いますか?」


 少女の質問に、検査結果を告げるしかない職員も表情を悲しげにする。


「難しいですね」


 少なくとも少女の力に、怪獣への有効性は見られない。杖での殴打は確かに筋力もあって強力だが、あくまで一般人と比べた利点はあっても軍と連携するには足りない。

 そのことは最初から無断で怪獣退治を行っていた少女自身が覚悟していたことでもあった。


「肉体的な強度はありますが、怪獣に有効な攻撃が確認できていません。志望してもらえることは感謝しますが、やはり、出撃許可は期待しないでください」


「分かっていたことですけど、つらいですね」


 普通の人間は、弱小の怪獣だろうと再生能力を備えた時点で手に負えなくなる。

 魔法少女もその肉体を用いて潰していくことには可能だが、そうなるくらいなら、最初から戦闘向きの能力を持った者に任せた方が被害の拡大を防げる。


「まだ、なりたてだろ。使い続ける内に、何となく感じてくるものじゃないか?」


「そうなんですか?」


 アイリが付け足した言葉にも、職員は良い反応を見せない。

 良例の存在も眼前の一人に過度な期待を抱かせるには足りない程度でしかなかった。


「緊張で変身できない方もいますので、何かしら力の変化を感じた時には、再び検査を行ってみるのが良いかもしれません」


「……無理を言いますが、対怪獣用の武装を扱えたりはできませんか?」


「それは軍事物資なの私たちではどうにも。前線基地の方でも実戦経験が少ない者の受け入れは認可してくれないでしょう」


「そうですか……。では職業訓練の方は、いつから受けられますか?」


「そちらは事務処理が終わり次第、早ければ明日からでも可能になると思いますよ」


 魔法少女が活躍する場は市街だけではない。

 実戦を重ねた優秀な人材は、前線基地で国土防衛を任される。


 市街地では、あくまで軍との連携を学ぶ場でしかない。

 怪獣が頻出する危険地帯では、そもそも民間人が立ち入らないことで兵器の制限が解かれる。代わりに怪獣の脅威度も高く、各現場の支援も不足がちになる。単独で動く機会が増すため、決して弱い魔法少女には務まらない。

 住宅地の近くに立地する、この施設で、成人前後の魔法少女が見当たらないのもその理由であった。


 実験室での会話も終わり、少女は廊下に出る。


「これまで怪獣に立ち向かってきたのに、なんか悔しいな」


「でも、きっと誰かに言われないと、諦められなかったから」


「……ごめんな」


「アイリが謝る理由はないよ。私のせいで迷惑をかけたわけだし」


 怪獣は出現が確認された時点で、必ず魔法少女が出動する。

 これまで少女により早く怪獣が倒されたとしても、関わる人員を減らすことにならず、助けにはなっていない。


 少女は、魔法少女の力が消えるまで職業訓練だけの日々になることに心配を告げるアイリに改めて向かい合う。


「まあ、なんだ。仕事に疲れた時は養ってやるよ」


「また私ばかり助けられてる」


「じゃあさ、私が怪我した時には看病してくれよ。病室に閉じ込められるとめっぽう暇なんだ」


「できるだけ、怪我はしないでね」


「もちろん。でも小さな傷なら、絆創膏くらい貼ってくれないかな?」


「もう」


 アイリは、少女が隣に並ぶのを待って歩きを再開する。

 そんな直後には、廊下の先に人を見つけていた。


「わ! 主任。どしたの?」


「え……」


 少女は隣で発された言葉を疑う余裕もなかった。

 正面から現れた女性は、間違いなく自身が見知った顔でもあり、その視線は明らかに自身に向けられていた。


「聞いたよ、アイリちゃん。勝手な判断で一般人を危険にさらしたって」


「それは、もう怒られた。こうして無事、一緒にいるわけだから、ノーカウント!」


「へぇ? 規則を破ったのに、そんな軽い処分で済ませるつもりなんだ? 給与はしっかり求めるのに、処罰になると甘くなるのかな」


「うぐっ」


「朝礼三日。もちろん寝間着で立つなんて許さないからね?」


「この鬼。鬼畜ー!」


「目覚ましなら、この前プレゼントしたでしょう」


 主任と呼ばれた女性は、嘆くアイリに応援の言葉を告げた次に、こちらを見る。


「サツキさんだったよね。ちょーと来てくれるかな?」


「何! サツキはやらないぞ!」


「少し話すだけだから警戒しない」


 胸元の名札を見る。

 局長、兼主任という肩書きには名前が続く。


 加賀優香。


 何故という疑問もあるが、先に考えるべきは今の状況だった。


 こうして顔を会わせて、名も呼ばれた。

 少女が書いた資料を読んだというなら、疑問に思わないはずもない。


「サツキさんも構わないよね?」


「……はい」


「私も行くぞ!」


「ダメ。個人的な話もするから、他人に聞かせたくない話もあるかもしれないでしょ」


 二人きりを要求する女性に、少女は従った。




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