紹介 前編
ー翌日ー
ゆりなは早速、総合病院に向かった。
祖母のキヨ子のお見舞いはもちろん、昨日出会った少女の亜子にも会う為に。病院の入り口の自動ドアを入った瞬間....ふと、ゆりなは思った。
「あっちゃんの病室番号は何?...」と肝心の病室番号を聞き忘れてしまった。しかも連絡先交換もしてないのでスマホのメールも使えない。唐突の口だけの約束だったので、重要な事を忘れていた。病院の受付の係の人に尋ねようとしたが、流石に「すみません。日比野亜子さんの病室はどこですか?」と話せば、亜子との関係も聞かれる事にもなるので、それだけは面倒くさいし厄介だ。
まずはおばあちゃんのお見舞いからしよう!とゆりなは決めた。元々はキヨ子が入院をしていてお見舞いをするのが、本来の目的だったから、それが終わったら亜子探しをしようとゆりなは気持ちを切り替えた。
「おばあちゃん、入るよ?」と言いながら、ゆりなはキヨ子の病室に入った。キヨ子は腰に骨を固定するコルセットを巻いていたが、いつも通りニコニコと微笑んでゆりなを迎えた。ゆりなは傍にあった椅子に腰を掛けた。
「おばあちゃん、元気?」
「ええ、元気よ。心配かけてごめんね、ゆり なちゃん。」
「大丈夫だよ。」
とたわいのない言葉を繋げる。するとキヨ子から、「そういえばね、昨日の夜ぐらいかな?ゆりなちゃんの同じくらいの歳の女の子がね。突然私の病室に訪れたの!」
と聞いたゆりなは....
「ん?」と返した。どう反応したらいいのか分からなかったから。キヨ子は話を続ける。
「最初は、ビックリしたけど。でもね、話しているとね自然と仲良くなったの‼️
その子の名前は日比野亜子ちゃんって言うんだけど....」
「ちょっと待って、おばあちゃん!」とキヨ子の話を遮る。それもその筈だ。キヨ子の口から亜子の名前を出したから。
「おばあちゃん、あっちゃんと会ったの?」
「あら、ゆりなちゃんも亜子ちゃんの事を知ってるの?」
「質問で返さないで。私は昨日、偶然にあっちゃんと会ったの。おばあちゃんもあっちゃんの事を知っていたからビックリしているの‼️」と話した。キヨ子は、ゆったりとした口調で
「亜子ちゃんは、この病院内では有名な子だよ。」と話す。さらに、ゆりなは混乱した。
話を割るとごったごったになると思ったから、ゆりなは仕方なくキヨ子の話を最後まで聞く事にした。
「亜子ちゃんはね、入院している子供達の世話をしてくれるの。遊び相手もしてね、いつも庭でかくれんぼや鬼ごっこをしてるみたいよ。」
「うん、そうなんだ。」
「それでね、亜子ちゃんはすごいの。作曲をして音楽を作る事ができるみたいなの。看護師さんに聞いたんだけど、たまに受付があるロビーにあるピアノで演奏をするらしいの。入院患者や外来患者、看護師などの医療スタッフの人達、性別や歳関係なく、亜子ちゃんの音楽はかなりの高評価みたいよ」
「へぇ〜」とゆりなは聞きながら、ふと、昨日の事を思い出した。亜子と出会った時も楽譜に音符を書いて作曲してたのを見たから、その話を聞いて、自然と頭に入った。
「さらに」とキヨ子が話を続ける。
「亜子ちゃんはほとんどの入院患者さんと交流してるみたい。さっき昨日、私の所に来て一緒に喋った事を話したけどあの後、すぐに看護師さんに見つかって怒られていたの。こういう風に突然訪ねることがが度々あるらしいよ。」と聞く。ゆりなも亜子と話した時大体の性格を知ったので納得した。
「結論から言うとあっちゃんは、少し変わっているけどすごい子とおばあちゃんは言いたいんだよね?」
「そうなのよ、ゆりなちゃん。呑み込みが早いね。」とキヨ子は感心する。
ゆりなは、キヨ子から亜子の話を聞いたので、益々会いたくなった。仲良くなってみたいと思った。
「おばあちゃん、私ねあっちゃんに会ってきたいから、これぐらいにするね。
またね、おばあちゃん。」
「ええ、わかったわ。バイバイ」
とキヨ子の言葉を聞いてから、ゆりなは病室のドアを閉めた。
亜子とどうやって再会しようか、ゆりなは考えていると、
「今日、亜子ちゃんがピアノ演奏してくれるみたいよ」
「そうなの?行ってみようかしら」
と話す二人の女性の声が聞こえたので、ゆりなもロビーにあるピアノの所に向かった。
ロビーに向かうと大勢の人達が立っていた。キヨ子が言ってた通り入院患者や外来患者、看護師などの医療スタッフの人達が亜子の演奏を聞こうと群がっていた。人混みがすごい中、掻き分けて亜子が見えるところまで、ゆりなは歩いた。亜子はすでにピアノを弾いていた。ピアノで音を紡いでいく....
その音色は暖かくて,優しくて,明るい,明るいけど、どこか儚くて病に犯されている人々に寄り添い安心される様に。希望を与える様に。そうやって人々をピアノを弾く事で多くの人に寄り添う亜子がすごい人とゆりなは思えた。ゆりなは亜子の音に魅了された。
亜子がピアノ演奏を終えると大勢の人達が拍手をした。勿論ゆりなも他の人に負けないくらいに大きな拍手をした。亜子が椅子から立つと、子供達が亜子によっていた。入院をしている子供達だった。
「あこちゃん、ピアノすごかった。」
「あこちゃん、また弾いてくれる?」
「みんな、ありがとう。みんなが喜んでくれているから、ボクも嬉しいよ。また、ピアノ弾いてあげるから、楽しみにしてね♪」と話していた。その後も高齢患者や医療スタッフの人達と亜子は話していたから、ゆりなは亜子に話しかけれなかった。ここは病院で、大声は控える場だけど、今回は人々が少しだけ控えていたが、一体となって亜子を讃えて声を上げていた。ゆりなは少し胸が痛くなった。そして、フラッシュバックしてしまった。ゆりなが事故にあった出来事を思い出してしまった。人々が声をあげていて、怖くなった。右腕にある傷跡がズキリと痛む。
怖い,苦しい,痛い,寂しい,消えたい
様々な感情が溢れていく。もう、ここから立ち去りたい。ゆりなは亜子に会いに行こうと思っていたが、それも思えなくなった。ゆりなは歩こうとすると、「ゆり‼️」と亜子がゆりなの傍に寄ってきた。声を聞いた瞬間、安心感がゆりなに与えた。フラッシュバックも少しずつ収まっていった。
「ゆり」
「あっちゃん......」
「来てくれたんだ、ありがとう。」
「うん。どういたしまして」
「......」と亜子が突然黙った。ゆりなは急に黙り込んだ亜子にどう接すればいいのか悩んでいた。すると「いこっか、ゆり。」と言いながら片手に楽譜を持って、もう一つの片手にゆりなの手を握った。そして、ゆりなを連れて歩いていった。ゆりなは突然の事に驚きながら亜子についていった。
「......あっちゃん、どこに行くの?」
「ボクの病室」と言った後、亜子はすぐに黙ってゆりなを自身の病室に連れて行った。
二人が亜子の病室についた。亜子がドアを引いたので、ゆりなは「お邪魔します」と言いながら入る。亜子も病室に入って、すぐにドアを閉める。亜子の病室は集団病室ではなく、個別の病室だった。意外と物を片付けられていて、楽譜も整理されていた。すると、ゆりなの視界が暗くなった。ゆりなは驚きのあまり混乱してしまった。
それは、亜子がゆりなを抱きしめていたから。
「あっちゃん?」
ゆりなが声を掛けても、亜子はゆりなの頭を撫でる。亜子はゆりなよりもひとまわり身長が高くて改めて見ると、ゆりなは何故かドキドキしてしまった。ゆりなは少しだけ顔をあげてチラリと亜子の顔を見た。亜子は男の子みたいに髪はショートカットになっていて顔が綺麗。ボーイッシュな子だと思った。また、メイクや髪飾りをつけると、さらに女の子っぽいになると想像すると中性的な子だなぁと見惚れてしまう。
「ゆり、大丈夫?」とようやく亜子が話した。さらに「ピアノ弾き終わって、沢山の人と話していたの。そしたら、ふと、ゆりが見えたの。来てくれたんだ、嬉しい。と思ったの。でも、ゆりの顔が苦しそうな顔になったから心配したの」と話を続けた。そっかあっちゃんが心配してくれたんだ、とゆりなは思った。
「ありがとう、あっちゃん。」
「どういたしまして、ゆり。」
「少しだけ、怖い思い出を思い出しちゃったの。」
「そうなんだ....」と言って亜子はゆりなにこれ以上話を深追いしなかった。ゆりなを気遣ったと思う。
「今は言えないの、あっちゃんに。だからもう少し待ってね。絶対に話すから安心して」
「ありがとう、ゆり。」
「でもね。急に病室まで私を連れて込んだから、ビックリしたんだ。」
「だって、ゆりを安心できる場所はどこかな?って考えていたら、ボクの病室と思ったの。驚かせてごめんね。」
「いいよ。もう大丈夫だから、そろそろ離してくれないかな?」とゆりなは言う。それもその筈だ。今も亜子はゆりなを抱きしめていたからだ。
「わかったよ、ゆり。」と言いながらゆりなから離れる。
「あっちゃん、これから私たち、お互いに自己紹介しようよ。もっとあっちゃんの事を知りたいし。」
「そうだね、ゆり。今からお互いを知ろう‼️」と亜子が元気に言ったので、ゆりなは何故か笑みが溢れた。
亜子がベットに腰を下ろしたら、手でポンポンと叩いて、ゆりなを隣に座らせようと促す。亜子がどうしたいのかを汲み取ったゆりなは亜子の隣に座った。
様々な出来事があったけど、ようやく二人はお互いの事を知ろうとする。




