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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

とある力を手に入れた男の話

作者: 鷹村紅士

ただの一般人が現代で敵と大いなる力を突然与えられた結果。

 汚れをしっかりと風呂で落とし切った後、テレビでニュース番組を見つつ、端末でインターネットの動画投稿サイトを同時閲覧すると、とんでもなくディスられていた。


「ボクね、この人は危険だと思うんですよ。だって生き物を殺して喜んでいるんでしょ? 嫌だなこんな人と同じ民族だと思われるの」


「いやぁヤバいよ! 血まみれだよ? こんな蛮族がこの時代にいるなんて思わないじゃん! 絶対ヤバいって!」


「これ本気で怖いね。狂ってるよ。動画見たけど、多分こいつはイカれてる。殴る蹴るの喧嘩をする奴らも嫌いだけど、こいつはトップレベルで嫌いだ」


「私はこう思うんですよ。この男がいるからこの国が危険にさらされているんじゃないかって。だって、この男は必ず現れるじゃないですか」


「国外に追い出せるでしょ? 民主主義でほら、多数決で。今、アンケートとったら絶対みんな賛成だよ」


「警察はなにしてんだ? こいつ逮捕しろよ危険人物だろ。ほんと、税金で食ってる奴らはクソだな」


「自衛隊ほんと使えねー。銃も使って化け物一匹よりよえー」


「日本オワタ」


 多くの者たちが好き勝手に自らの考えを語っている。

 その全てが俺を否定していた。


 そうか。それがお前らの答えか。


 なら、そうしてやる。


 俺だってうんざりだ。


 *****


 西暦2035年、太平洋に隕石が落下した。

 宇宙から大質量が落下すれば大きな被害が起こるはずだが、その隕石はまるでパラシュートで降下したか、逆噴射したかのように静かに海へ軟着陸した。

 世界中のメディアがいち早くスクープをものにしようとあらゆる手段を用いて現場に向かった。

 そこで見たものは、結晶とゲル状のもので構成された怪物であった。

 スクープに沸いて歓声を上げるメディアたちであったが、すぐにそれが悲鳴に変わった。

 ゲル状の肉体がカメレオンの舌のように伸び、結晶状の装甲で乗っていた船を粉砕されたからだ。

 その光景はライブ中継され、世界中に拡散された。

 その化け物は隕石から湧き出るようにどんどん出現し、やがて海に沈んでいった。

 それを衛星からの映像で確認した者たちは安堵する。


 あいつら、自滅したぞ。


 その映像は公開され、異星生物の侵略だ! と騒いでいた世界中の人々も安堵し、化け物を嘲笑した。

 しかし、数日後にハワイへ化け物が大量に上陸したことでパニックに陥った。

 数えるのも馬鹿らしい数の化け物がハワイを埋め尽くす光景が世界中に知れ渡った。

 インターネット、そして簡単に映像を配信できる端末とシステムが確立していたのが良かったのか悪かったのか。

 化け物の進軍。建造物を破壊する光景。人間が蹂躙され、捕食されていく一部始終。

 米軍はハワイ奪還を目指して軍を派遣したが、結果は惨敗。

 化け物の結晶状の外殻はミサイルや砲弾では破壊できず、ゲル状の体は破壊されたと思いきや再生、と言うよりアメーバが集まるような形で復元され、結果、無傷。

 作戦の練り直しを強いられた米軍だったが、沿岸に待機していた艦船が海中から現れた化け物によって全てが海の藻屑となった。

 さらに衝撃のニュースは続き、化け物は南北アメリカ大陸、ニューギニア島、オーストラリア、日本にまで上陸。

 沿岸部は瞬く間に化け物に蹂躙されていった。

 世界中は終末思想に染まり、各地で暴動や掠奪が横行し、着実に人類敗北への道を辿っていった。


 しかし、ここで希望の一報があった。


 日本において、化け物が倒されたというのだ。

 その光景は携帯端末で撮影され、ネットに投稿された。解像度は悪く、手ブレが多くて見られたものではなかったが、確実に化け物が倒れ、外殻を残して消滅していった光景であった。

 ネットは嘘だという意見が大多数であったが、数日後には日本に進軍した化け物が掃討されたとなれば話は別だ。

 多くの一般人が撮影した動画が多数アップロードされ、それが事実であると分かれば掌を返してその『化け物を倒せる人物』を英雄視した。


 その人物が日本を守ったのと同時に、化け物たちの動きが変わった。


 化け物たちは蹂躙していた各地で動きを止め、再び海へと身を沈めていった。

 その行く先は、日本。

 大挙して押し寄せてきた化け物に絶望する日本であったが、沿岸部で化け物を殴り、蹴り、投げ飛ばし、踏みつぶすその人物の活躍で事なきを得た。


 その光景も、一般人が撮影した動画がネットに投稿された事で世界に広まった。


 やがて、化け物は数ではなく質を高めたようで、ただでさえ巨体であった体躯をより巨大化させて日本へ侵攻した。

 激戦の末、それも倒されたが。

 それが一回、二回と続くことで世界は再び平穏を取り戻した。

 化け物は日本に向かい、その他の地域には一切見向きもしなくなり、回数を重ねるごとに凶悪化していく化け物も、謎のヒーローが倒してくれる。


 ああ良かった。


 日本の沿岸部には多数のカメラが置かれ、スリル満点でド迫力のショーを撮影するべく多くの人々が日々詰めかける。

 被害を受けた地域も復興に尽力しつつ、世界はいつしか化け物退治の動画を一種の娯楽として享受していった、


 やがてそれが当たり前になると、人々は『化け物を倒せる人物』へと興味の対象をシフトさせていった。

 この人物の正体を詳らかにするため、多くの労力が費やされていった。

 メディアは化け物を倒して去っていく人物への独占取材を敢行するために追いかけまわし、一般人たちは映像から分かる特徴からあの人だ、この人だと議論を過熱させていった。


 そんな事をしていたことで、ある事件が起こった。

 化け物との戦闘の最中、大勢がカメラを持ったまま戦闘区域に入り込み、化け物によって命を落とした。

 これに対し、非難が相次いだ。

 化け物と戦っていた人物に対して。


 曰く、ヒーローなんだから守れよ。

 曰く、なんて無能。

 曰く、雑魚。

 曰く、こいつはサイコパス。


 化け物との戦いに勝手に割り込んで──などという意見は無視された。

 それからというもの、世間はこの人物に対しての怒りを加速させていった。

 正体を暴くために魔女狩りの如く多くの一般人の個人情報が晒され、それを信じた人々によって迫害され、その恨みつらみは全て『化け物を倒せる人物』に向かっていく。

 ニュースは連日、その被害者たちを取材して悲しみの声をお茶の間に届け、多くの評論家や専門家たちが『化け物を倒せる人物』に対する意見を発していく。

 ネットでは多くのリスナーを要するストリーマーたちが自分の意見を発し、そのリスナーたちもコメントで意見を書いていく。


 その全てが、『化け物を倒せる人物』を貶める意図を持っていた。


 超高層ビルと同等の巨体を持つ化け物を倒し、やっとこさ一息ついたのに、気が滅入る。

 よし、もうやめるか!


 *****


 化け物が出現した時、俺は山の中でソロキャンプを楽しんでいた。

 日々の喧騒を忘れてのんびりゆったりできるので正直楽しい。

 そんな時、上空を光の塊が通過したかと思えば、光の欠片が俺の胸に着弾した。


 ──その力で守れ。


 やけにはっきり聞こえたその声とともに俺の体は超人的な力を発揮できるようになった。

 大木を蹴り折り、大岩を殴り壊せる。

 狂喜乱舞した。

 頭の中がお花畑になっていたんだと今なら分かる。

 ご機嫌で帰宅し、テレビを付けたら化け物が隕石から湧き出てくるニュースが。


 このための力か!


 まるでヒーローものの主人公になったように夜な夜な訓練と称して街中を走ったりシャドーボクシングしたり。

 ワクワクしていた。

 そしてついに日本へと化け物が上陸して、喜び勇んで殴りに行った。

 黒いゲル状の体に結晶の外殻。目も口もなく、全身で生物を飲み込んで、建造物は結晶の外殻によって破壊する。

 正に化け物。地球外からやってきた侵略者。

 勝てるのか?

 いや、勝つ!

 状況に酔った俺はそのまま暴れまわって、来ていた化け物たちをいつの間にか殲滅していた。

 倒し終わって、ヒーローはすぐに立ち去るべし! などと言って撤収。

 初めての戦いにアドレナリンが出ていたせいか、家に帰ってきても疲れず、そのままネットで検索をかけて話題になっていないかと探し回って、ニュースや動画を見てニヤニヤして。

 調子に乗って化け物が来れば謎のヒーローを気取って倒しに行き、化け物が日本にしか来なくなれば俺が地球を守るんだ! とイタイ思考に塗れて奮闘して、ニュースやネットで俺の活躍が流れれば一人で喜んでいた。

 まぁ、それもすぐに収まった。

 いつものように化け物を倒していたら、カメラを持った連中が何かを叫びながら突撃してきて、化け物に殺された。

 なんであんなことをしたんだと疑問に思いつつ化け物を倒して、帰ってくれば掌返し。

 勝手に危険地帯に入って死んだというのに、俺に責任があるような意見で染まっていた。

 苛立ちつつも、まぁすぐに俺の行動に感謝するだろ。

 そう思っていたけど、世間様はそうではなく。

 俺を批判する意見は収まらず、加熱し続け。

 俺の外見に似た他人を俺だと決めつけて勝手に追い詰めて行き、それをニュースが取り上げれば俺へのヘイトが勝手に溜まっていき、ついには俺を排除しろまで言ってくる。


 俺が守ってやってんだろうが!

 なんでお前らに好き勝手言われなきゃならねぇんだよ!

 クソムカつく!


 八つ当たりで大怪獣ばりに大きな化け物を殴り倒して、また帰ってきて、ニュースやネットを見れば、また俺をディスっている。


 そこで、ふと冷静になった。


 なんで俺戦ってんだろ?

 いや、最初はあの謎の声に言われて舞い上がっていたからだが、別に俺が戦う義理はないだろう。

 俺が望んで得た力じゃないし、感謝されるなら別だけど、勝手に死にに来た連中を助けなかったからって、それは自業自得じゃん?

 それで俺が悪い?

 今まで戦ってきたのに、もう俺を憎んでいる連中が多いじゃん?

 そんな連中、守るの?

 やだよ。

 この力があれば、俺は別にあの化け物を恐れる必要はないし。

 俺がいらないなら、うん、もういいんじゃねぇかな。


 *****


 自給自足も慣れればいいな。

 太陽光発電が普及してたお陰で山の中の一軒家でも普通に家電が使えて便利便利。


 あれから俺はネットにアカウントを作って一言だけ発信した。


 そんなに言うなら戦わない。後はお前らで頑張れ。


 自分の端末ではなく、誰かが落とした端末でやったので俺が特定される危険は一切なく、そのまま放置した。

 すると世間は大いに賑わった。

 悪い方向に。

 ネットの特定班とやらが端末の特定を行い、持ち主が『化け物を倒せる人物』としてヘイトを一身に受け、自殺したと報道があった。

 化け物と戦える人間が自殺するか? と思ったが世間はそこに疑問を抱かず、その持ち主の個人情報をあらゆる手段を持って明らかにし、親類縁者、友好関係にある人物に至るまですべて調べ上げ、その全てを追い詰めていった。

 坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、とは言うが、関係するもの全部を攻撃するなんて、日本人怖いわー。


 まぁ、そんなことをしている間に超巨大怪獣は日本に上陸して、都市部は壊滅。人々は逃げ惑い、日本は壊滅。

 その後はまた最初の小型の奴らが世界中に侵攻を開始。

 世界中で阿鼻叫喚の地獄絵図。

 それでも死ぬまで動画をネットにライブ配信する人間の多い事。

 気合入ってんな。

 まだ生き残っている人々はネットに俺の帰還を祈っていると書き残していたが、それ以上に俺への罵詈雑言が多く、モチベなんぞ一向に上がらない。


 ここら辺は今の所平和だ。

 どうやらあいつらは倒されるとそこに危険な存在がいると分かるらしく、その地点に攻撃を仕掛ける習性があるようなので遠く離れた場所で倒し、そこに誘導することで俺が今いる地域は何もない。

 食料は瓦礫に埋もれたスーパーだったりコンビニで缶詰やらなにやらを発掘したりなんだりと頑張ってかき集めた。

 水は川から引いているし、電気は自家発電してるし。

 まだ当分持つだろ。

 テレビはもう映らないが、ネットではまだ人類の生き残りたちが頑張っている。


 いやぁ世紀末だなぁ。


こうなるんじゃないかな? という予想。

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― 新着の感想 ―
[一言] そんなに人間が嫌いになったのか、ウ○トラマンw シン・ウルトラマンとハンコックって映画を思い出しました。 政府側の視点でなぜこうなってしまったのかも見てみたいですね。
[良い点] そうなるよね むしろこの力で人を脅さなかった分えらい [一言] バッシングもせめて ちくしょう!このヒーローがヒロインだったら 戦うヒロイン敗北陵辱アンソロジーのモブ役になれたのに! くら…
[良い点] そりゃそうだ [気になる点] 軍すら一方的に壊滅できる地球外生命体?に、地球全体で唯一対抗できる存在をバッシングしてやる気損なわせるって、政府は何してたんだ? 「“彼”の活動を妨害する、あ…
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