prologue /クビになった男の噂
「……なん……で、殺したんだ?」
俺は言った。
血に塗れた、騎士は答えた。
「――王よ。貴方の選択だからです」
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夕暮れのビル街。
影法師が伸びている。
とあるビルの窓辺で飲み物を片手に、数人の若い社員たちが休憩していた。
「山田さん結局、クビになったんだってえ」
「ええ? なんで?」
「知らなあい。でも部長もいい加減、キてたんじゃなあい?」
「ああそれ知ってる。新チームのメンバー入り、山田さんだけが断ったんだろ? あの人いっつも役職任されると断るじゃん」
「え? 昇進のチャンスじゃん。それでなんでクビ?」
「さあ? 部長としても最後通告だったんだろ。『上昇志向を見せろ』ってさ。やる気ない社員は、首切れって前から言われてたらしいし」
「ええ〜〜こわ〜〜」
「まあ俺らは大丈夫でしょ。流石にあの人みたいに、三十まで何もできないままでいるわけないし」
「ほんっとアタシ、あの人の部下から外れて良かったな〜〜。正直、いっつもヘラヘラしてて、頼りなさ過ぎ! ってカンジだったもん」
「あはは。それは酷すぎでしょ〜〜。……まあちょっとわかるけど」
「他の先輩たちも言ってた。
山田さんって、いっつも一番責任の無い仕事選んでるから……。
やる気ないにしても、せめてもっと誤魔化せよ!ってさ」
「あんなあからさまなのは、流石に見てて萎えるよな」
「ま、挙句の果てにクビとかは勘弁だな。ああいう社会人には、なりたくねーわ」
話をしていた一人がそう言って、空になった缶を放り投げた。
カラン、とゴミ箱から音がした。
*